アングル:エネルギー市場の命運握るのはイラン、一方的勝利宣言なら攻撃継続も
[ドバイ/バグダッド 15日 ロイター] - サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコが8日からの週に顧客に宛てて「4月の輸出にどの港を使うかはっきりしていない」と通知する書簡を送ったことで、新たな現実が浮き彫りになった。つまり、世界のエネルギー市場再開のカギを握っているのは、もはや米国ではなくイランだということだ。
アラムコは書簡で、原油の出荷地は紅海になるかもしれないが、引き続き中東湾岸かもしれないと説明。この書簡を受け取った、サウジ産原油を定期的に購入しているある買い手は「この戦争がいつ終わるのか、イランに直接電話して聞いたほうが良さそうだ。そうしないと石油が手に入らない」と皮肉った。
この発言から分かるように、「米国とイスラエルはいつでも戦争終結を宣言できるかもしれないが、国際エネルギー機関(IEA)が言うところの『史上最も深刻な石油・ガス供給の混乱』がいつまで続くのかを最終的に決めるのはイランだ」との認識が中東内外で広がりつつある。
The IEA's agreed 400-million-barrel emergency oil release to counter the Middle East supply shock is more than double its previous record action in 2022トランプ米大統領は米国が勝利に近づいていると繰り返し発言しているが、終結までの期間の見通しは数日から数週間と幅がある。
イランは米国とイスラエルの攻撃への報復として、ホルムズ海峡を航行する船舶にドローン(無人機)やミサイルによる攻撃を行っている。これにより世界の原油および液化天然ガス(LNG)供給の約20%が事実上遮断され、精製所、石油化学工場、発電所などエネルギーを多く使う産業への供給が滞っている。
中東の企業の幹部や欧米企業の関係者は、たとえ戦闘がすぐに停止しても船舶の航行や生産の再開には米国による安全の保証だけでは不十分だと警告している。イランは低コストのドローンを大量に生産・運用できるため、米・イスラエル側が戦闘終了を宣言した後も長期間にわたり海運を混乱させたり麻痺させたりし続ける能力がある。
トランプ氏はホルムズ海峡の船舶航行再開を支援するため米軍の護衛艦を派遣する可能性を示し、同盟国にも軍艦の派遣を呼びかけている。しかし湾岸地域のエネルギー業界幹部によると、米・イスラエルとイランが、イランによる船舶への攻撃や威嚇停止を含む合意に達しない限り、軍艦による護衛だけでは船舶の航行は正常化しない。この幹部は、イランが安全な通航を保証するまで、自分のタンカーは動かさないと述べた。
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の研究者ニール・キリアム氏は、もし米国とイスラエルがイランの受け入れない条件で勝利を宣言すれば、イランは機雷やドローンを駆使してさらなる混乱を引き起こし、「敗北していないこと」を示そうとするだろうと指摘した。
14日には米軍がイラン最大の原油輸出拠点であるカーグ島を攻撃したが、その数時間後にアラブ首長国連邦(UAE)の石油積み出し拠点フジャイラがドローン攻撃の標的となった。
RBCキャピタル・マーケッツのエネルギー専門家で元米中央情報局(CIA)アナリスト、ヘリマ・クロフト氏は、イランはこの紛争に「安全な避難場所など存在せず」、緊張激化の主導権を米国側が握るわけではない、というメッセージを発していると指摘する。その上で、イエメン、イラクなどで代理勢力による攻撃が起きる可能性もあるとの見方を示した。
イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、紅海に面したサウジ西部の港湾都市ヤンブーを攻撃する可能性があり、そうなればエネルギー業界や海運業界、さらには世界経済へのリスクは一段と高まる。ヤンブーは現在、サウジにとって唯一の代替原油輸出ルートとなっている。
<崩壊した信頼>
今回の危機は供給ルートへの信頼を崩壊させ、この地域のエネルギーシステム防衛のぜい弱さを露呈させたと、イラク政府のエネルギー顧問は指摘した。信頼の修復には数カ月を要し、リスクの増大により輸送保険料は上昇し、保険の確保も難しくなると見ている。
イランの攻撃でサウジ、UAE、バーレーン、イスラエル各国の製油所が止まり、石油・ガス価格は最大60%急騰した。モルガン・スタンレーなどのアナリストは、たとえ紛争が早期に解決しても市場の混乱は数週間続くと予測。調査会社ラピダン・エナジーのアナリストは、世界の石油会社は湾岸地域への復帰を急がない可能性があり、油田再稼働の遅れや油田損傷のリスクが生じる恐れがあると指摘した。
航路封鎖により生産者は輸出ができず、生産削減も迫られている。サウジアラムコはサファーニーヤ、ズルーフの2つの洋上油田で生産を停止し、石油輸出国機構(OPEC)最大の産油国であるサウジの生産量は20%落ち込んだ。世界第2位の産油国イラクは生産が70%減少。OPEC第3位の産油国UAEも生産が半減したとアナリストは指摘する。アナリストの推計によると、中東全体では現在、産油量が日量700万―1000万バレル減っており、これは全世界の需要の7-10%に相当する。
さらにLNGはカタールが生産を完全に停止し、世界供給の20%が失われた。カタールは顧客に貨物が5月まで届かない可能性があると通知している。業界関係者は「理由は単純で、安全の問題だ。命を危険にさらすわけにはいかない」と話した。
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Yousef covers Middle East energy out of Dubai, paying close attention to Gulf state oil giants, their roles in the ambitious region's transformational plans and the shift to green energy. He previously covered Gulf financial and economic news, with a focus on the fast-growing capital markets there. He joined Reuters in 2018 in Cairo, where he covered Egypt and Sudan, including its uprising. He previously had stints at a local paper in Cairo and in D.C. as an intern at Politico during the 2016 U.S. presidential election.
Maha has been working as a Reuters journalist for over 15 years covering stories across the Middle East from Egypt, the Gulf, Yemen, Iraq, Syria, Lebanon and Jordan. She is currently Gulf Bureau Chief based in Dubai and continues to cover energy and OPEC policy. In her previous roles, Maha has overseen Lebanon, Syria and Jordan coverage as Bureau Chief based in Beirut and managed the energy and commodities file across the Middle East. Maha began her career with Reuters in Cairo.