大量絶滅の際に活動した5つの巨大火山(佐野貴司/火山・岩石研究者)

図3.アイスランドでの2022年夏の噴火(撮影:佐野貴司)

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 火山は日本をはじめとする様々な地域に存在し、毎年のように世界中のどこかで噴火が起きています。これら活火山の噴火が生物の生態に及ぼす影響は極めて限定的であり、火山に隣接する地域でなければ、我々の生活が脅かされることはありません。しかし、現在の活火山とは比較にならないほどの超巨大火山が地球上には複数存在し、破局的な噴火により地球規模での環境変動や大量絶滅を引き起こしてきました。

ビッグファイブと「巨大火成区(LIP)」

 地球の歴史において、5億4100万年前に始まるカンブリア紀以降、生物は多様性を増やしてきました(図1)。生物の科数は時代と共に増加しましたが、科の数が激減する時期があり、ここでは大量絶滅が起きたことが指摘されています。大量絶滅は古い方から順番に、オルドビス紀末(約4億4400万年前)、デボン紀後期(約3億7200万年前)、ペルム紀末(約2億5200万年前)、三畳紀末(約2億100万年前)、白亜紀末(6600万年前)の5回起きており、これらは「ビッグファイブ」とよばれています。

図1. 地質年代と海洋動物の多様度の変化(Sepkoski, 1984の図を簡略化)(画像提供:佐野貴司)

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 大量絶滅が起きた原因については、古来より様々な仮説が提案されてきました。有力な仮説としては小天体の衝突説もありますが、ここでは「ビッグファイブ」に関連する火山活動を紹介します。

 地球規模での環境変動を引き起こした超巨大火山は、「巨大火成区(Large Igneous Province: LIP)」とよばれています。これら巨大火成区の中で特段に大きく、陸上で火山噴火を行ったものが、大量絶滅を引き起こしたと考えられています(図2)。

図2.巨大火成区の分布(佐野, 2025の図)(画像提供:佐野貴司)

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 ビッグファイブに関連する巨大火成区としては、古い方から順番に、揚子江LIP、ヴィリュイLIP、シベリアLIP、中央大西洋LIP、デカンLIPの5つの活動が挙げられています。これら巨大火成区の活動時期はビッグファイブの時期に一致しています。なお、ここでは巨大火成区の個別名として、これらが分布する地域名に英語の略語のLIPを付けて示しています。

 以下では、それぞれのLIP活動が関連した大量絶滅を見ていきましょう。

揚子江LIPとオルドビス紀末の大量絶滅

 近年、1回目のオルドビス紀末の大量絶滅に関連したのは、中国の揚子江(長江)流域に厚く堆積した火山灰であることが指摘されはじめました(図2)。これら火山灰の噴火年代がオルドビス紀末の約4億4400万年前であることが分かったからです。

 火山灰にはリンや鉄などの栄養素が多く含まれており、海洋に流れ込むと、植物プランクトンの爆発的増殖が引き起こされます。オルドビス紀末に植物プランクトンは光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、その結果として地球の気温を急激に低下させました。また、オルドビス紀後期に噴火し、現在のアメリカ中北部やスウェーデンに堆積している火山灰も海に流入し、寒冷化を促進させました。残存する火山灰は軽く富士山の体積の10倍は超えており、年間に1立法キロメートルを超える火山灰が海に流入したと推測されています。

 この寒冷化により大陸では氷床が発達し、雨水が氷として固定され、世界的に海水準が低下しました。すると広大な大陸棚が陸化し、四放サンゴや床板サンゴからなる生物礁や、そこを住処としていた三葉虫、腕足類、筆のような形で海で浮遊生活を送っていた筆石、ウナギのような細長い体の魚であるコノドントなどが大打撃を受けました。

 このイベントはビッグファイブの中で2番目に大きな絶滅であり、海域生物の種の86%が絶滅しました。一方、陸上での絶滅については不明です。当時はまだ生物が陸上へ進出したばかりであり、化石記録がほとんど残っていないためです。

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