小惑星「2024 YR4」、地球ではなく月に衝突する可能性 そのとき何が起きるのか?<上>

ウェッブ望遠鏡は今年3月、搭載する観測機器「NIRCam」と「MIRI」を使用してYR4の画像を撮影した/A Rivkin/Webb/STScI/CSA/NASA/ESA

米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所の惑星天文学者、アンディ・リブキン氏によると、天文学者は「惑星キラー」に分類される地球近傍小惑星の大半をすでに発見したと考えている。惑星キラーとは、文明に終わりをもたらす可能性を秘めた直径1キロ以上の宇宙の岩を指す。6600万年前に地球に衝突し恐竜を絶滅させた「惑星キラー」は、直径およそ10キロだったと推定されている。

発見後に俗に「シティーキラー」と呼ばれるようになったYR4のような比較的小さな小惑星でも、地球に衝突すれば地域一帯を壊滅させる可能性がある。NASAによると、直径140メートル超1キロ未満の地球近傍天体(より広い範囲を破壊する可能性がある)の場合、特定されているのは4割ほどだという。

しかしウィーガート氏によれば、天文学者はいまだかつて、これほどの規模の衝突が月で起こるのをリアルタイムで観測したことはない。YR4が見えなくなる前の6月3日に行われた最後の観測では、月衝突の確率が4.3%に上ることが判明した。これは低い確率とはいえ、その場合に起こりうるシナリオを科学者が検討するには十分な数字だった。 

目を見張る流星群が発生か、危険も

初期段階の計算では、衝突は地球から見える月の表側で起きる可能性が最も高い。

ウェッブ望遠鏡によるYR4の調査を主導してきたリブキン氏は、「YR4は非常に暗く小さい。このため我々はジームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使うことで、地上から観測するよりも長い期間、位置を測定することに成功した」「そのおかげで、我々はYR4の軌道をはるかに正確に算出できるようになった。今ではYR4が将来どこに向かうか、向かわないかを高い精度で把握できている」と話す。

ウィーガート氏によれば、衝突によって数秒間、肉眼で見えるほど明るい閃光(せんこう)が発生する可能性もある。ウィーガート氏が筆頭著者を務めた論文は米天文学会の学術誌に最近提出され、月衝突の可能性について分析している。

新たな研究により 、YR4が衝突する可能性のある月面の4カ所がモデル化された(Paul Wiegert/Western University)

衝突が起きた場合、月に推定1キロの幅のクレーターを形成する可能性があると、ウィーガート氏は指摘。リブキン氏の補足によれば、これはアリゾナ州のメテオクレーターに匹敵する大きさだという。ウィーガート氏の研究のモデリングによれば、月への衝突としてはここ5000年で最大規模になるとみられ、月の岩石や塵(ちり)を最大1億キロ分放出する可能性がある。

数十センチ程度の大きさの破片でも、月にいるかもしれない宇宙飛行士や、研究や居住を目的に建設された構造物にとっては脅威になり得ると、ウィーガート氏は話す。月には大気がないため、衝突で生じた破片は月面の広い範囲に飛び散る可能性があるとも言い添えた。

NASAによれば、地球から月までの距離は平均38万4400キロ。

破片は信じられないほど高速で移動するため、小惑星の衝突から数日~数カ月で大きめの砂粒ほどのサイズ(0.1~10ミリ)の月物質が地球に到達し、目を引く激しい流星群を生み出す可能性もあるという。

「地上の人には全く危険がない」とウィーガート氏。「大きな岩、あるいは角砂糖以上の大きさの物が飛来するとは考えていない。地球の大気が良い具合に我々を守ってくれるだろう。ただ、弾丸を上回る移動速度になることから、人工衛星に衝突した場合、一定の損傷を引き起こす可能性はある」と指摘する。

ただし米セントルイス・ワシントン大学によれば、地球に到達する月の破片全てがこれほど小さいわけではなく、衝突の角度やタイプによっても左右される。宇宙の岩は何百万年にもわたって月面に衝突しており、この結果、地球上では様々な大きさの月隕石(いんせき)が発見されている。

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