5Gの次はAIと衛星が主戦場に。ドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天がCEATECで示した次世代インフラ戦略
15日、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催中の総合技術見本市「CEATEC 2025」で、総務省をはじめNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの各社が、5Gの現状や将来展望、AI社会に向けたネットワーク進化の方針について講演した。
総務省は、日本が人口減少という大きな課題に直面する中で、経済成長やイノベーション創出、地方創生に貢献するため、「DX・イノベーション加速化プラン2030」を5月に発表した。この計画は、ゲームチェンジャーとして期待される光電融合技術を基盤とし、データセンターや海底ケーブル、AI活用を含めた全国規模でのDX推進を目指すもの。「デジタルインフラ整備計画2030」に基づき、光ファイバーやモバイルネットワークに加え、非地上系ネットワーク(NTN)などのインフラ整備も強力に推進している。
モバイルネットワークの整備目標では、Sub6について2030年度末までに人口カバー率95%の達成を掲げ、今後整備する5G基地局(Sub6・ミリ波)は、原則としてSA(スタンドアローン)対応を前提としている。さらに、高速道路のカバー率100%、国道を含む道路カバー率99%の実現を目指す。
NTNは、離島や山間部を効率的にカバーする手段として注目されている。Starlinkをはじめとする衛星コンステレーションの急速な発展を受け、台風22号で既存通信が途絶した八丈島ではStarlinkへの利用要望が寄せられるなど、災害時にも大きな効果を発揮している。HAPSと呼ばれる上空利用の取り組みも、国内の複数通信事業者が進めており、当初は災害地域や島嶼部をスポット的にカバーしつつ、将来的には高速大容量通信を全国に展開する構想がある。
地域企業や自治体が敷地内などで柔軟に5Gシステムを構築できるローカル5Gは、商用化から6年が経過したものの、爆発的な普及には至っていない。しかし、スマート工場や遠隔制御、スマート農業、防災、医療分野などでの活用が期待されている。さらに総務省では、運転手不足や物流拡大に対応する自動運転の推進に向け、2030年代を見据えた研究会を立ち上げ、通信インフラと自動運転技術の連携強化について検討を進めている。
電波利用では、高周波数帯の有効活用を促すため、2025年の法改正により26GHz超の高周波数帯に競争的な価格評価を導入するオークション制度を導入した。日本では、ワイヤレス分野の成長がGDPを最大53兆円押し上げるとの試算もあり、限られたリソースを重点技術に振り向ける方針を示している。
ドコモは2020年3月の5Gサービス開始以降、基地局数を年約1万局のペースで増加させ、5G契約者数は3000万を突破。現在はエリア拡大を背景に、5G信号を活用したサービス提供へとシフトしている。
ユースケースとしては、慶應義塾大学と共同で、触覚よりも高度な「手の感覚」を遠隔伝送する実証を進めており、遠隔医療などへの応用が期待される。また、自動運転実験のインフラ構築にかかる時間とコストを削減するため、IOWNの光伝送路や基地局、各種センサーをパッケージ化したソリューションも提供している。
ネットワーク面では、5G SAの展開を強化。LTEエリアが混雑する高トラフィック環境で高スループット・良好な体感品質が得られることを、スタジアムでの実証で確認した。
法人向けには、LTEエリアでも利用可能な「5Gワイド」を提供。基地局側で優先的に帯域を割り当てることで、混雑時にも安定した通信を求める運送業などのニーズに対応している。ミリ波展開は、国立競技場やIGアリーナなど来場者の多い拠点に集中的に進め、高速通信を通じた新しい体験価値を創出している。
オープンRANの推進にも積極的で、3G時代からのインターフェイス標準化の経験を活かし、O-RAN Allianceで主導的役割を果たすほか、OREXを通じて海外展開も進めている。
今後は、地上ネットワーク(TN)とNTNの連携により、利用者が意識することなく日本中どこでも接続できる環境の実現を目指す。HAPSやLEOなどの新技術にも積極的に取り組む。
さらに、「AIのためのネットワーク」と「ネットワークのためのAI」を二本柱とするAI時代の戦略を掲げる。前者では、外部センサー情報を大容量・低遅延通信でロボットへ伝達し、より高度な判断を可能にすることを想定。後者では、AIを用いてネットワーク運用を自動化し、災害復旧や顧客体験(CX)の最適化を図る。AIによる無線品質推定の実験では、スループットを最大18%向上させる成果も得ている。
KDDIは国内最多のSub6基地局を展開し、高品質な5Gネットワークを構築。顧客体験向上のため、利用者の声やビッグデータに加え、第三者機関の評価を活用し、AI分析と自動化によって過去1年間で100件超の改善を実施してきた。
さらにMassive MIMOの導入により通信速度を約1.6倍に向上させ、さらに国内初のSub6 2ブロック対応キャリアアグリゲーション(CA)を商用導入し、最大約2倍の通信速度を実現。
収益化の取り組みとして、7月から「au 5G Fast Lane」を開始。混雑エリアでの優先帯域割り当てにより、一般ユーザー比で約2倍の通信速度を達成している。また、5G SAを活用したネットワークスライシングによる中継ソリューションを提供し、スポーツ中継やライブ配信などで低遅延・安定伝送を実現。ドローン専用スライスの実証も進めており、遠隔警備など新たなユースケースへの展開が期待される。
トラフィック増大への対策として、京セラと共同開発したミリ波中継器を導入。アンテナが最も強い波を受信・中継し、多段中継や経路冗長性を備える。新宿での検証ではカバー率を33%から99%へ拡大し、大阪・関西万博でも高速通信の確保に貢献した。
さらに、衛星とスマートフォンを直接接続する「au Starlink Direct」サービスを開始。9月時点で220万接続を突破し、山岳遭難対策では長野県や「ヤマレコ」と連携し、圏外からの位置情報送信で救助の初動時間を短縮。今後はドローン連携による災害対応なども視野に入れている。
ソフトバンクの佃英幸氏は、AI社会では「AIが人間の脳」「通信が血管」「データが血液」に相当するとし、これらを高品質に維持することが社会的責任だと説明した。現在、5G基地局は約10万局、人口カバー率96%で、将来的には4G同等の99%、NTNを含めた100%を目指す。
2024年春から5G SAエリアを急拡大し、VoNRによる音声通話や5G RedCapによるIoT対応を進めている。
また、AI時代の鍵として「アップリンク強化」を挙げる。カメラ映像など大容量データの上り通信が急増するため、4.9GHz帯を含む全帯域を最大活用し、CA展開を推進。ローバンドと5G帯のCAで1.5倍、HPUE導入でアップリンクスループットを40%向上させた。
基地局制御を中央集約するクラウドRANを推進し、AIによる負荷平準化でパケ詰まりを防止。来年以降はAIによるパラメーター自動最適化も導入予定。
強靭化では、病院や自治体など4000局で72時間対応バッテリーを導入し、光・衛星の多重伝送によって末端までの冗長性を確保。HAPSではLTA型気球を2026年夏頃から運用開始予定で、NTNを組み合わせて100%のカバレッジを目指す。また、能登半島地震の教訓を踏まえ、海上通信や海底ケーブルの分散化も進めている。
さらに、AI計算基盤と通信基盤の融合を目指し、北海道苫小牧と大阪府堺市にGPUサーバーセンターを建設。上層で学習、下層で推論を行う垂直分散型アーキテクチャを構築している。慶應義塾大学では、このAI制御基地局を使った自動運転車の安全停止実証も行われた。
楽天モバイルは完全仮想化ネットワークとオープンRANを採用。RIC(RAN Intelligent Controller)による20%のコスト削減を目指し、低価格プランの継続提供につなげている。
限られた周波数資源の中でSub6・ミリ波を展開し、Massive MIMOをネットワークの8割超に導入して高速通信と広域カバーを実現。RICを活用し、停電時に自動的に出力制御する省電力運用や、検証環境の自動化も進めている。
エッジクラウドでは、「楽天クラウドネイティブプラットフォーム」のグローバル展開を計画。仮想化とコンテナの両立により、次世代クラウド基盤を目指す。
NTNでは、2026年第4四半期に「Rakuten最強衛星サービス」を国内で開始予定。基地局機能を地上側で制御し、衛星側はアンテナと周波数変換に特化する構成を採用する。これにより、現在キャリア平均約70%の面積カバー率を100%に近づけ、より多くのユーザーに安定した通信体験を提供していく。