欧州、台湾要人を相次ぎ受け入れ-中国の「レッドライン」に踏み込む
トランプ米大統領が台湾防衛へのコミットメントを明確にせず、台北で懸念が高まる中で、台湾の要人は訪欧を通じ欧州との関係強化を図っている。
台湾の蕭美琴副総統は先週、欧州連合(EU)の欧州議会で演説を行い、台湾の現職副総統として2002年以来、短時間の立ち寄りを除き外交関係のない欧州の国を初めて訪問した。
事実上の台湾駐米代表を務め、英語が堪能な蕭氏は、厳しい対中姿勢を唱える議員連盟「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」の会合でスピーチした。
その数日後、蔡英文前総統もベルリンで講演し、「権威主義的手法」の危険性を警告。中国による台湾への威圧とロシアのウクライナ侵攻を対比させた。
欧州議会は域内全体の政策決定を主導する立場にはないものの、蕭氏の訪欧については、ベルギー政府とドイツ政府、さらにEUの外交機関からも許可を得たと、欧州訪問の実務調整を担当した台湾外交部(外務省)の呉志中政務次長がブルームバーグ・ニュースに対し明らかにした。
呉氏は「通常この種の訪問は数カ月の調整を要するが、今回は約1カ月で完了し、出発の数日前にすべての欧州側関係機関から承認された」と述べ、「欧州各国が台湾の重要性を認識している」と強調した。
非公式な話だとして匿名を条件に述べた1人の台湾当局者によれば、台湾は今回の訪欧を契機に他の外国議会への招待が広がることを期待しているという。台湾に戻った蕭氏は、台湾が「国際的な認知と支援をさらに得ることになる」と指摘した。
EUの報道官は、EUは引き続き「一つの中国」政策を堅持するものの、「価値観を共有する民主主義体制で、重要な経済・ハイテクパートナーである台湾との緊密な関係維持に関心を持っている」と説明した。
一方、中国外務省は北京での10日の定例記者会見で、蕭氏を「台湾独立派政治家」と呼び、「欧州議会の建物内での活動」に対して欧州議会に抗議を申し入れたと発表した。
もう一つの成果
台湾の頼清徳総統は中国からの圧力が強まる中で、国際社会での台湾の地位向上を図る外交攻勢を強めている。台湾は先月、欧州17カ国から計41人の議員団を迎え入れた。欧州から過去最大級の訪台となった。
蔡氏は昨年の総統退任後、欧州歴訪を続けており、チェコとデンマーク、リトアニア、英国、ドイツで講演した。林佳竜外交部長(外相)も最近、ポーランドとベルギー、フランス、オランダ、オーストリア、チェコを訪問している。
台湾と正式な外交関係を持たないEUだが、中国がロシアのウクライナ侵攻を非難しない姿勢に強い不満を示している。さらに、中国が戦闘機や自動車などに不可欠なレアアース(希土類)の供給を外交手段として利用していることも、欧中関係悪化の一因となっている。
ユーラシア・グループの中国・北東アジア担当シニアアナリスト、ジェレミー・チャン氏は、「EUと中国の外交・経済関係が悪化する中で、EUやドイツ台湾問題で中国が越えてはならない一線だとする『レッドライン』に踏み込まない理由が薄れている」と分析した。
ドイツが蕭氏の乗り継ぎを認め、蔡氏を受け入れたことは、中国との関係を複雑化させる可能性がある。ワーデフール独外相は先月、十分な会談設定ができなかったとして訪中を直前に中止した。クリングバイル独副首相は来週、中国共産党幹部との会談のため訪中する予定だ。
中国が侵攻した場合に台湾を防衛するかトランプ氏が明言を避けている状況下で、欧州は現職の台湾高官を正式に受け入れた。これは極めて異例のことだ。
トランプ氏は先週、中国人民解放軍が台湾に侵攻しようとすれば、習近平国家主席は「何が起こるかを理解している」と述べたが、詳細には触れなかった。バイデン前米大統領は在任中4回にわたり、台湾防衛に言及していた。
台北では、トランプ氏が台湾を犠牲にして中国と貿易合意を結ぶのではないかとの懸念がある。同氏は、韓国で行った習氏との首脳会談で台湾は議題に上らなかったと語っている。
事情に詳しい関係者によれば、台湾政府は今も、頼氏の米国経由での外遊を模索している。総統府の郭雅慧報道官はブルームバーグへのコメントで、現時点で頼氏の外遊計画はないと説明した。頼氏の米国立ち寄りを7月に認めなかったとされるトランプ氏は、来年4月の中国訪問を予定している。
台湾にとってもう一つの外交的成果は、日本の高市早苗首相が先週、台湾有事が日本にとって「存立危機事態」になり得ると発言したことだ。日本や欧州は、他の形でも台湾への支持を示している。
ドイツは昨年、20年ぶりに海軍艦艇を台湾海峡に派遣した。日本も台湾海峡に海上自衛隊の護衛艦を航行させている。欧州はここ数年、台湾製ドローン(無人機)の購入を増やしており、現代戦の主要装備として注目されている。
蕭氏はベルギーでの会合で、スマートフォンや自動車、医療機器、防衛システムなどを支える半導体製造で台湾が果たす重要な役割を訴え、台湾は「平和と繁栄、民主主義の未来を巡る世界的な議論において不可欠な存在だ」と主張した。
原題:Taiwan Appeals to Europe in Bid to Secure Friends Beyond Trump (抜粋)
— 取材協力 Colum Murphy, Jenny Leonard, Philip Glamann, Andrea Palasciano and Lyubov Pronina