セールスフォースもアドビも撃沈…“SaaSの死”で人間に残された「たった3つの役割」(ビジネス+IT)
米アンソロピックが開発した最新のAIが、幅広い分野で業務の自動化を急速に進めている。これを受けて、「従来の業務ソフトは生成AIに代替されるのではないか」という見方が市場で広がり、米国のSaaS関連企業の株価が下落した。これが、「SaaSの死」と呼ばれる現象だ。 そもそもSaaS(Software as a Service)とは、インターネットを通じて業務ソフトを提供するサービス形態だ。データ管理、会計処理、文書作成、画像編集などの機能を、定額課金で提供する。企業が独自に業務システムを構築する場合に比べて、低コストで、かつ短期間で導入できることから、高い成長力を持つビジネスモデルと考えられてきた。 SaaS提供企業の代表例としては、CRM(顧客関係管理)を主力とする「セールスフォース」、中小企業向け会計ソフトを提供する「インテュイット」、デザイン分野の「アドビ」、業務管理を担う「サービスナウ」などがある。また、業務ソフトの売上比率が高いことから、マイクロソフトも広義のSaaS企業として捉えられることがある。 SaaSの特徴は、会計処理など特定の業務をソフトウェアとして提供し、人間がそれを操作する点にあった。そこで前提とされてきたのは、人間が入力作業を担当し、ソフトウェアがそれを支援するという役割分担であった。
ところが最近のAIは、専門のプログラマーに匹敵する能力を持つようになった。このため、AIの助けを借りれば、プログラミング知識を持たない人でも、自然言語によってPCに指示を出せる。この手法は、「バイブコーディング」(vibe coding)と呼ばれる。 このような変化の入口を開いたのは、OpenAIが公開したChatGPTであったと言える。 ChatGPTは、従来の業務ソフトが採用してきた「画面操作」という前提を覆し、自然言語による対話だけで文書作成、分析、企画立案といった業務を進められる環境を広く普及させた。その結果、契約書の作成、財務モデルの構築、プレゼンテーション資料の作成など、これまで「専門職の仕事」とされてきた業務を、AIが一貫して担えるようになってきた。 ここで起きているのは、単なる「作業の自動化」ではない。重要なのは、人間とAIの接点(インターフェース)が変化し、その結果、仕事の分担が変わりつつあることだ。 具体的に言えば、「人間がソフトを操作する」というこれまでの構図が崩れ、AIが主体的に仕事を進めるようになった。そして、「人間は目的設定や最終判断を担う」という役割に移行しつつあるのだ。
Page 2
こうした変化を背景に、SaaS企業の株価が下落している。この現象が「SaaSの死」と呼ばれているものだ。しかし、死んでいるのはSaaSそのものというより、「人がソフトを操作する」という前提に立った業務設計だと考えるべきだろう。 今後、人間の仕事は、以下の領域へと重心を移していくことになるだろう。 ・何を目的とするかを定義する ・AIが出した結果を評価・修正する ・倫理や責任を引き受ける
米国では、以上で見た仕事観の転換が、現実のものとなりつつある。他方、日本では、政府が「AI基本計画」を策定し、「まずはAIを使ってみる」という方針を打ち出した。 これは、方向性として否定すべきものではない。ただ、「どんな使い方でも良い」というわけではあるまい。本稿で見たように、人間とAIの役割分担が大きく変わろうとしていることを見過ごしてはならない。 そうした認識なしに、「とにかく使えば、これまでよりは事務能率が上がる」という程度の使い方にとどまれば、日本と米国の差は、開くばかりだ。 問題は、CoworkやClaude Opus、そしてChatGPT(あるいは、それらの進化系)が活躍する時代において、日本の企業や組織がどのように仕事を再設計できるかである。その設計思想を自ら持てるかどうかが、AIにおける今後の競争力を左右することになるだろう。
執筆:野口 悠紀雄