コラム:台湾有事懸念がもたらす宇宙戦争時代の幕開け
[ワシントン 13日 ロイター] - 米西部コロラド州コロラドスプリングスの米宇宙コマンド司令部では、軍事計画の立案責任者らが期限に追われながら、宇宙空間における初めての大規模戦争に向けた計画の策定を急いでいる。
その期限は2027年かもしれない。中国の習近平国家主席は自国軍に、この年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示したと米政府は認識している。
パレスチナ自治区ガザやウクライナでの地上戦がそうであるように、こうした宇宙戦争もまた衛星通信に大きく依存した、極めて複雑で変化の急な戦闘となる見込みだ。電子妨害や人工知能(AI)が制御する無人機、そして互いに追尾・攻撃可能な宇宙船の活用も増えるだろう。
そうした対立の多くは必然的に秘密裏で行われることになる。一方で、ここ2年間では、ロシアが地球周回軌道上で爆発する核兵器を開発していると米国が主張し、米国が秘密扱いにしている無人「スペースプレーン」が434日間の軌道上飛行という記録的な使命を終えて3月にフロリダ州に帰還、そしてトランプ大統領が次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を提唱、といった事例が次々と起きている。
ゴールデンドームは、トランプ氏が2期目に就任した直後の1月に発表したばかりにもかかわらず、既に宇宙統合軍、米空軍および関連機関の重要な優先課題となっている。
ほぼ毎週のように新たな動きが続いている。
先月は中国の宇宙科学者が、同国政府が有人宇宙ステーション「天宮」を接近する他の宇宙船から防衛するため、天宮に事実上の攻撃用無人機を装備することを検討していると述べた。
国際宇宙ステーション(ISS)における米国、ロシア、その他パートナー諸国間の関係は、1990年代初頭のプロジェクト開始以来最も冷え込んでいる。ISSは2030年に使命を終え、その後間もなく太平洋に墜落させられる予定だ。
その結果、21年に打ち上げられた中国の天宮が、地球周回軌道上に残る唯一の常時有人プラットフォームとなる。
いくら中国が「自衛」だと主張しても、何らかの形で「武装」された場合、それは宇宙の地政学を劇的に異なる局面へと移行させる起点となるだろう。
そうでなくても進歩は加速しており、それに伴い複雑さやリスクも増大している。
冷戦時代の「宇宙開発戦争」と現在との大きな違いのひとつが、軌道上またはそれを超える範囲で活動している国の数だ。技術進歩のスピードや、民間企業、特にスペースXとその創設者イーロン・マスク氏の役割も、当時と大きく異なる点だ。
米国とその西側同盟国は現在、中国とロシアの共同プロジェクトとの間で、人類を月に再び送り出すための競争を繰り広げている。
中国は月面基地の前段階としてロボットの常時配備を目指しており、この競争は威信の争いを超えて、資源と軍事的優位性を競うものになりつつある。
最近激しい口論を繰り広げたマスク氏とトランプ氏は足元で融和を図っているようだが、この2人の亀裂も宇宙戦争の勢力図における不確定要素として加わった。
米航空宇宙局(NASA)の民間宇宙計画と、宇宙コマンドの軍事作戦はいずれも、打ち上げをスペースXに大きく依存している。米軍とその同盟国も、通信にマスク氏のスターリンクを多用している。
マスク氏がウクライナ政府に対し、ロシア占領地域上空でのスターリンク使用を拒否したと報じられて以来、複数の政府は、センシティブな通信システムを、英ワンウェブなどスターリンクと類似する他の低軌道通信システムへと移行させている。
<宇宙でドッグファイト>
ホワイトハウスは先月、次期NASA長官候補へのジャレッド・アイザックマン氏の指名を取り消すと発表した。同氏はマスク氏が推挙していた人物だ。
これにより、政権とマスク氏の対立はさらに悪化する可能性がある。マスク氏は一時、米国の有人宇宙飛行計画の要であるスペースXの宇宙船「ドラゴン」の退役をほのめかした。
マスク氏はすぐに脅しを撤回したが、宇宙産業関係者らは、これでスペースXの長期的な信頼性が傷付いた可能性があると指摘している。マスク氏の一存で、同社が巨額の長期契約を放棄する恐れが見えてきたからだ。
中国の新華社通信は4月、中国が月と地球の重力によって衛星を一定の位置に保持できる「シスルナ空間」に3つの衛星コンステレーションを構築したと報じた。
こうした衛星は月の裏側にある有人基地や無人機との通信に不可欠だ。しかし同時に、ここを起点に下層軌道にある他の衛星、特に偵察プラットフォームを監視できるようになり、場合によっては攻撃も可能になる。
米宇宙軍作戦副部長のマイケル・グートライン将軍は3月の防衛カンファレンスで、部下が中国製の「5つの物体」が「宇宙でドッグファイトし、制御され同期した動きで互いの周りを移動する」のを観察したと述べた。
<台湾有事の緊急性>
民間アナリストは過去数カ月間、米宇宙軍の指揮官らが戦闘と戦闘抑止のための準備態勢について、以前よりはるかに積極的に言及するようになったと指摘している。
米宇宙軍司令官のスティーブン・ホワイティング大将によると、中国が27年までに台湾攻撃の準備を整える可能性があるという米政府の分析により、彼の指揮に「緊急性」がもたらされた。
中国当局は、台湾侵攻の準備に関して指示を与えたことを否定している。米当局者も、そうした作戦の発動について直接的な決定が下されたとは考えていないと言う。しかしその日に向けて準備を整えよとの指示は、米軍の隅々まで行き渡っている。
台湾周辺での戦闘は米インド太平洋軍の主要な責任範囲だが、宇宙軍が最初から行動に加わる可能性を疑う者はほとんどいない。
司令官のホワイティング大将は、自身の指揮範囲は地球の100キロメートル上空から始まり、宇宙空間に「無限に」広がるものだと説明している。
宇宙軍は英国、オーストラリアその他の国々と「共同商業活動(JCO)」セルを構築し、商業用衛星事業者と協力して敵の衛星を含む脅威について警告を受けられるようにしている。
しかし新たな大規模戦争が勃発した場合、これらの能力も全て標的となる可能性が高く、世界がそうした混乱にどう対処するかは不明だ。
ホワイティング氏は4月のカンファレンスで、「宇宙で戦争が起こったことはない。宇宙で戦争が始まり、拡大していくのは望まない。しかし最善の準備を整えておく必要がある」と述べた。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。