「ニセコバブル」崩壊の前兆か、中国系高級リゾートが経営破綻 チャイナマネーに陰り

外国人にも人気のニセコスキーリゾート。後方は羊蹄山=北海道倶知安町

北海道ニセコで最大級となるリゾート開発を手掛けた中国系企業が経営破綻した。近年、ニセコエリアは海外資本の流入で地価や人件費の高騰が止まらず、街は様変わりした。ただ、チャイナマネーの大型案件が頓挫し、外国資本がもたらすリスクも表面化。地元では「バブル崩壊の前兆か」との懸念が広がっている。

スキーヤーが愛してやまない上質のパウダースノーに魅了され、世界的リゾートに成長したニセコ。その中心地、倶知安(くっちゃん)町にある「ひらふ坂」の一角に建設が途中で止まり、シートで覆われた建物がある。

今年4月、東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた「ラ・プルーム・ニセコリゾート特定目的会社」(東京)が手掛けるコンドミニアム棟。昨年秋から建設がストップした。計画では219の客室と5つのプライベートヴィラを備えた、ニセコ最大級の宿泊施設になる予定だった。関係者によると、工事を請け負った道内の建設会社への支払いが滞り、建設が3割程度進んだところで工事が中断したという。

負債は数十億円の見通し

破産管財人の代理人弁護士によると、ラ・プルームは令和2年12月に設立。中国系企業の日本現地法人が用地を取得し、開発を進めていたが、資金繰りが行き詰まり、計画は頓挫した。負債総額は数十億円に上る見通し。債権者である建設会社が裁判所に申し立て、破産手続きの開始が決まったという。

アイヌ語で「切り立った崖」を意味するニセコは2001年の米中枢同時多発テロ後、北米を避けたオーストラリアのスキー客に注目され、急速に発展した。中でも外国人富裕層によるニセコ投資はブームとなり、高級スノーリゾートとして世界中に知られるようになった。ただ、新型コロナ禍以降、豪州資本は落ち着き、代わって中国や香港、韓国からの投資が台頭した。

世界中のスキーヤーでにぎわうニセコリゾート。夕日に照らされた羊蹄山が目の前に広がる=北海道倶知安町

一向に冷めない投資熱に押される形で地価も高騰する。国土交通省が発表した令和7年の地価公示では、倶知安町の住宅地は前年比9・7%増の18万1千円。商業地も「ひらふ坂」周辺では1平方㍍辺り50万円超の土地もあり、10年前の2倍以上に跳ね上がった。令和2年の地価公示では住宅地、商業地ともに同町の上昇率が全国一になった。

平均時給は2千円

訪日客数も増加の一途だ。倶知安町によると、ニセコ地域(ニセコ、蘭悦、倶知安町)の外国人宿泊者数は令和5年度、延べ73万8800人。統計が残る平成18年以降、過去最多を記録した。

一方、訪日客を受け入れるホテルや飲食業などのスタッフ人件費は「爆上がり」が続く。冬季のハイシーズンともなれば、アルバイトの平均時給が2千円を超えることも珍しくない。これは東京よりも高い。

倶知安町で飲食店を営む男性は「英語が話せる人なら時給3千円もざらにある。当然ながら、人件費の負担分はメニューの値上げで賄わざるを得ない」と話す。

「カレーライス物価」

「味噌ラーメン2千円」「ハンバーガー3千円」。冬季のニセコでは、こんな価格帯のメニューが並ぶ飲食店も多い。折からの円安も加わり、増加の一途をたどる訪日客数に伴い、物価高を揶揄した「ニセコ価格」というワードがSNS上では飛び交う。

そんなイメージを払拭しようと、ニセコ町ではカレーライスを作るのに必要な費用を計算し、家庭の食卓への影響を指数で示す「カレーライス物価」のニセコ版を試算した。試算によると、今年3月のカレーライス物価は382円。全国平均より25円も安い。町は「地域の生活実態と乖離した情報が広まっている。誤った情報の訂正は容易ではないが、今後も適切な情報を発信していく」としている。

人口が1万7千人の倶知安町は定住者の2割を外国人が占める。「ニセコバブル」とも呼ばれる現象が続く中で発覚した中国系高級リゾートの計画頓挫。建設が中断したホテルが廃墟と化せば、人気リゾートのイメージ悪化にもつながりかねず、地元では不安が広がる。

ラ・プルーム破産管財人の代理人弁護士は産経新聞の取材に「既に現地確認も行ったが、このまま放置されることがないよう関係各所と協議を続けている。事業の規模や計画は今後変わるかもしれないが、どんな形であれ、事業の継続は模索していきたい」と説明した。(白岩賢太)

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