つくばの自動運転バスは、なぜ乗車率ほぼ100%を実現できるのか 年内に有料化
茨城県つくば市は、デジタル技術を住民生活に浸透させる「つくばスーパーサイエンスシティ構想2.0」を掲げており、特に公共交通におけるスマートモビリティの実証実験を続けてきた。これに対して、実証実験を実際の社会実装するための取り組みも開始しており、4つのサービスが報道関係者向けに説明された。 【この記事に関する別の画像を見る】 五十嵐立青・つくば市長は「実証をやってそのまま、というのが日本の自治体にはあまりにも多い。補助金頼みの構造や規制の壁はあるが、我々は本気で社会実装を目指す」と強調しており、継続した取り組みを強化していく考えだ。 その中で、KDDIやティアフォーらと取り組む自動運転バスについては、2026年度から有料化し、2027年度には運転手がいないレベル4自動運転を実現させる計画。 五十嵐市長は、「1路線でレベル4自動運転が実現した後は、似たような路線であれば蓄積されたデータを元にレベル4の認可を出すべき」と国に対する要望も行なっており、レベル4自動運転バスの実現に向けて本気の姿勢を示していた。 ■ レベル4自動運転など、つくば市の交通課題への取り組み つくば市がスマートモビリティに関する取り組みを強化している背景には、深刻な交通課題がある。つくば市内の自家用車の「交通手段分担率」は平均63%に達し、市の周辺部では80%を超えているエリアもあるという。五十嵐市長は「環境負荷、高齢化による免許返納などの観点からはあまり良くはない」と強調する。 そのため、五十嵐市長は公共交通機関の充実を図ってきたと言うが、2024年以降はドライバーの残業規制が厳しくなったこともあって、運転手不足が進んだ結果、五十嵐市長就任以来初のバス減便も実施された。平日は14%、土休日は33%の減便となり、ますます公共交通機関が縮小した。 特に高齢者は、自家用車がなければ移動できないため免許が返納できず、返納すると出歩かなくなるといった悪循環に陥りがちだ。 これに対してつくば市では市民の移動手段の確保に向けてスマートモビリティの取り組みを開始した。「本当は国がもっと本気になってほしいが、自治体で頑張らなくてはならない。アプリなどを使って公共交通をシームレスにつないで移動できるようにする」と五十嵐市長は話す。 そこでつくばスーパーサイエンスシティ構想2.0ではスマートモビリティとして自動運転バス、パーソナルモビリティシェアリングサービス「つくモビ」、子ども向け移動サービス「こどもMaaS」、複数の交通機関利用でのハンズフリー乗車などが可能になるハンズフリーチケッティング「つくチケ」という4種類の実証実験が行なわれている。運転手不足解消のため、自動運転バスやこどもMaaSではレベル4の自動運転を目指していく考えで、継続した取り組みによってデータの蓄積をさらに進めていく。 ■ 100%近い乗車率を誇る自動運転バス 10月に有料化へ 自動運転バスは、ティアフォー製のバスに対してKDDIが通信環境を提供するなどして実現したもの。 このつくば市の事例では、他の地域とは異なり通信環境の提供だけでなく、自動運転実現のためにKDDI自身が積極的に取り組んでいるのが特徴で、東京・高輪ゲートウェイのKDDI新本社のイベントでも紹介されていた。 関東バスが運行し、つくば駅から筑波大学までを結ぶ「筑波大学循環ルート(右回り)」を走行する。1日4便の運行で乗車率は95.9%を実現。今回の実証では着座のみの運行で、座席がすべて埋まると乗車率100%になるため、ほぼ満員の状態となっている。 KDDIではこれについて「日本でも様々な自動運転バスの実証はあるが、ここまで高い乗車率で住民に乗ってもらっているのは日本でも類を見ない」と強調。自動運転が地域住民に受け入れられているとの考えを示した。 五十嵐市長は、1年前に比べても自動運転でスムーズに走行できており、同路線における自動運転のデータの蓄積が進んでいると説明。こうしたデータを踏まえて国に対してレベル4自動運転の認可申請を準備していく予定。2026年度には、同路線での定常運行を開始し、10月に有料化。2027年度には、レベル4自動運転を開始したい考えだ。 自動運転バスの現状の課題について五十嵐市長は、レベル4自動運転で運転手がいない場合に、急病人が発生した際の対応といった点を挙げる。つくば市では、遠隔監視にAIを導入し、通常と違う動きをした人がいれば遠隔監視からバスを停止して通報する、といった仕組みを導入していると説明した。 また、「信号がない交差点で人、自転車、自動車の往来が激しい場所」だと急ブレーキをかけることが多くなっているそうで、道路側にセンサーを設置するなど、別の仕組みで安全性を高める必要があると分析する。 数年にわたって膨大なデータを蓄積した筑波大学循環ルートだが、ここでレベル4自動運転の認可が受けられても、別の路線ではまた一からデータ収集して申請する必要があると五十嵐市長は指摘。「だいたい類似の路線であれば、データが蓄積されたとみなして認可してもらえるよう、国と折衝を行なっている」と話した。 ■ 複数の交通機関をシームレスに利用「つくチケ」 つくチケは、日立製作所らが提供する複数の交通機関や観光・小売サービスを1つのアプリでシームレスに利用できるというサービス。今回はバス停や駅、小売店などにビーコンを設置することで、そのエリアに近づくと自動でアプリが起動してチケットが表示され、そのまま乗車して、降りたらそのバス停のビーコンで検出して運賃を確定する、という後払いの仕組みを構築した。 障害者などでも使いやすいようにハンズフリーでの利用ができる点にこだわったため、今回はビーコンによる自動起動の仕組みを導入したが、つくチケ自体はインタフェースを自由に組み合わせられるため、例えば同じ日立が東武鉄道と取り組んでいる生体認証によるプラットフォームにも対応できるという。つくば市内において、ビーコンは約600個を設置。こうしたビーコンによる取り組みとしては国内最大規模の事例だと日立は指摘する。 さらに、鉄道とバスを組み合わせて移動して、観光のケーブルカーに乗車したら20%オフ、飲食をしたら同様に割引するといった具合に、公共交通機関の組み合わせ利用で割引を提供しており、多くの人が還元限度額まで利用しているそうだ。現状は、市内の住人約200人がアプリを利用しているという。 ■ ゴルフカートで自動運転「こどもMaaS」 こどもMaaSは、バスと同じくレベル2の自動運転で、つくば駅周辺のセンター広場からつくばカピオ前までの約300mを走行する小型の自動運転車。実際はゴルフカートを改造したもので、より安価に自動運転車を開発するという取り組みによるもの。GNSS、2Dの簡易LiDAR、加速度センサーのみで自動運転を実現しており、さらにJAXAの協力で準天頂衛星のみちびきを活用する。 ただし、太陽フレアによるGNSSの測位誤差の影響で軽微な接触事故を起こしており、その解消のためにセンサーを増設した。今後は、その対策として3D LiDARを導入する意向だという。現状は運転手が乗車して、共働き世帯の子どもが移動を容易にできるようにする目的で導入されている。数年後には、レベル4の自動運転も実現したい考えだという。 ■ 6kmで歩道も走れるキックボード「つくモビ」 つくモビは、時速6km以下で走行するパーソナルモビリティのシェアリングサービス。法律上は「歩行者」扱いとなり、歩道が走れる反面、自転車のように車道の走行はできない(歩行者と同じ場所を走行しなければならない)。ほぼ早足ぐらいの速度で歩行者扱いのため、免許やヘルメットも不要で気軽に利用できる。 これまでは貸出ポートに係員がいて特定時間のみの利用だったが、ポートを3カ所に拡大するとともにアプリを使って貸出・返却ができるようになり、24時間利用できるようになった。現状は立ち乗りタイプだが、今後は着席タイプのパーソナルモビリティの実証も行なう考えだという。 五十嵐市長は、自動運転専用レーンを設けるなどの特別な対応をせず、既存の社会インフラを変更しないで自動運転レベル4が実現することが必要との考えを示す。多額の投資をせずに路車協調などの技術も用いてコストを抑えながら実現しないと自動運転バスの普及は難しいとの認識だ。 さらに五十嵐市長は、「最初からうまくいくような事業なら(市が)やる必要はない」と強調。すべてがスムーズに進んだ場合は「困難な課題へのチャレンジがなかった」ことを意味するため、失敗だとしてもどんな課題が見えてくるか、それに対する改善策の方向性を示すことが、実証実験としては重要だとの認識を示している。
Impress Watch,小山安博