「ベネズエラが米国の石油盗んだ」…トランプ大統領の主張の真実は(ハンギョレ新聞)

 「ベネズエラがわれわれから盗み出したすべての石油、土地およびその他の資産を米国に返還するまで、ベネズエラに出入りするすべての制裁タンカーに対する完全かつ全面的な(海上)封鎖は維持される」  米国のドナルド・トランプ大統領が16日(現地時間)、ベネズエラに対する新たな「宣戦布告」を行ったとき、封鎖行為に対する衝撃と同じくらい、その理由にも驚かされた。トランプ大統領は「われわれはそこにたくさんの石油を保有していた。知ってのとおり、彼らは米国の会社を追い出した。われわれはそれを取り戻したい」とも述べた。トランプ大統領の言うとおり、はたして米国企業はベネズエラから追い出されたのだろうか。  ベネズエラ出身で米国デンバー大学の経済学者、フランシスコ・ロドリゲス教授は、この主張を一蹴した。同教授は21日に公開されたワシントン・ポストの記事で「ベネズエラが米国から石油と土地を盗んだというトランプの主張には根拠がない」と強調した。  ベネズエラ政府が石油工業に対する統制権を確保したのは1976年のことだ。このとき、米国の巨大企業エクソンモービルが操業していたプロジェクトを含め、数百の民間企業と外国所有の資産を国有化した。30年ほど後、ベネズエラ最大の石油埋蔵地であるオリノコベルトを最後に、民間が運営していた石油ボーリング事業をウゴ・チャベス社会主義政権が掌握し、国有化を完成させた。ところが、これは右派と左派の政権がともに数十年にわたり行ってきた努力の産物だったと、ワシントン・ポストが報じた。  問題の歴史は、1908年から1935年の死亡時までベネズエラを統治した右翼の軍部独裁者、フアン・ビセンテ・ゴメスにさかのぼる。1922年、「ロイヤル・ダッチ・シェル」の地質学者らがベネズエラ北西部のマラカイボ盆地で石油を発見し、ベネズエラは1929年には米国に次ぐ世界最大の石油生産国になった。あっという間に100社を超える企業が参入し、ゴメスは死去する前に、ガルフ、ロイヤル・ダッチ・シェル、スタンダード・オイルの外国製油会社3社にベネズエラの石油市場の98%を掌握させる特権を付与した。当時、石油はベネズエラの全輸出の90%以上を占めた。  ゴメスが根こそぎ渡したベネズエラの石油工業を、彼の後任者たちが取り戻すために、数十年にわたり論争を続けたのはそのためだ。  1943年、ベネズエラ政府は、外国製油会社に利益の半分を政府に納めさせる法律を成立させた。1958年には、ベネズエラの主要政党が石油の収益にアクセスできるよう保障したと、同紙は報じた。一部ではこれについて、「ベネズエラのエリートの間での政治協約」だったと評している。  1975年、民主社会主義的なカルロス・アンドレス・ペレス大統領時代、石油国有化の法律が制定され、翌年、ベネズエラ国営の製油会社であるベネズエラ国営石油会社(PDVSA)が自国内の石油探査、生産、精製および輸出を引き継いだ。当時、エクソンとモービル(1999年に合併)や1984年にシェブロンとなったガルフ・オイルなど、米国企業が最大の打撃を受け、オランダのシェルも影響を受けた。ベネズエラの原油生産量の70%以上を占めたこれらの企業は、約50億ドル規模の損失をこうむったという。これらの企業がベネズエラ政府から補償として約束された金額は、各社10億ドルほどだったが、反発はなかった。  2007年、チャベス大統領はベネズエラを社会主義国家に変革する計画の一環として、ベネズエラの天然ガス産業の国有化も要求した。ベネズエラがオリノコベルト事業を買収する際、エクソンモービルとコノコフィリップスは新契約の条件に合意できず、最大400億ドルの補償を要求したが、シェブロンなどのいくつかの企業はベネズエラに残った。シェブロンはベネズエラで現在も操業している唯一の米国の石油企業だ。  その後、この問題は国際紛争解決・仲裁機関に移管された。国際商工会議所は2012年、エクソンモービルに9億800万ドルの賠償金を支払うよう判決を下したが、これはベネズエラが当初提示した10億ドルよりも少ない金額だった。コノコフィリップスは2018年、これより多い20億ドルの賠償判決を得た。この他にも、世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)も2014年、両社にそれぞれ16億ドルと87億ドルの賠償金を支払うよう要求した。米国による経済制裁や腐敗などで経済難に苦しめられたベネズエラは、いまだにこの額を全額支払えていない状態にある。  かつては一日300万~400万バレルを輸出していたベネズエラは、現在のニコラス・マドゥロ政権のもとで、一日90万バレル程度を輸出していると推測されている。これすらも、米国がベネズエラ沖でタンカーの拿捕を始めているため減っていく見込みだ。すでに米国は、10日にはタンカー「スキッパー」(米国の制裁対象)を、20日には制裁リストにないパナマ船籍の中国系(香港)所有のタンカー「センチュリーズ」を拿捕している。  ロドリゲス教授は、トランプ大統領が「ベネズエラに賠償金を支払うよう判決を下し、支払われ始めていたのにもかかわらず、米国が制裁を加えて賠償を不可能にさせた後、『盗んだ』と主張するようなもの」だと説明した。  主張の根拠はどうであれ、トランプ政権の全面的な海上封鎖は、ベネズエラ経済に深刻な打撃を与えるものとみられる。国際エネルギー機関(IEA)石油部門の元責任者であるニール・アトキンソン氏はワシントン・ポストに、短期的にはベネズエラに及ぼす影響は「きわめて深刻だ」としており、「長期的には災害となる結果を招くだろう」と述べた。アトキンソン氏は、ベネズエラが石油の輸出に動員するタンカーは指で数えられるほどしかなく、このようなタンカーを30隻阻止しても、ベネズエラにとっては致命的だと予測した。 キム・ジウン記者 (お問い合わせ [email protected] )

ハンギョレ新聞
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