KDDIの25年度2Qは増収増益、「UQ→au」の移行が逆転 松田社長「好循環が動き始めた」
KDDIは、2025年度第2四半期の決算を発表した。売上高は2兆9632億円、営業利益は5772億円でそれぞれ前年同期比3.8%、0.7%増の増収増益となった。当期利益は3777億円で前年同期比7.6%増だった。
個人向けモバイル事業の売上高は前年同期比で111億円増。同社では5月に料金プランを改定しており、KDDIの松田浩路社長は「通信の高度化、AI、エネルギー分野などへ投資し、好循環を実現する」と表現していた。
今期の決算には、その結果が現れつつあり、松田社長は「まさに動き始めた」と実感を語る。四半期売上高は前四半期比で6.3%増、四半期営業利益についても同じく11.8%増、四半期当期利益は同じく20.7%増と伸長した。各事業の成長により、過年度販促費の影響は吸収できた。
モバイルでは、長期での契約継続を重視した販売に注力するなど「ライフタイムバリュー」を意識した戦略で、ARPUは4460円と前年同期比140円増。ハンドセット解約率は1.21%で縮小傾向を保った。
通信品質向上への取り組みの結果、Opensignalの調査で高い評価を受けた。au Starlink Directは直近の接続数が270万人を突破。混雑時にもストレスなく通信できる「au 5G Fast Lane」は10月末時点で100万人の利用を記録した。Pontaパスの特典拡充やRCSへの対応、今後提供予定の通信と地震保険を組み合わせたサービスなど含め、サービスの価値を高める。
9月には、UQ mobileからauブランドへの移行がauからUQ mobileへの移行を上回った。UQ mobileでも料金プランや販売手法の見直しで「自宅セット割」や「端末セット率」が向上しており、長期契約のユーザーが増加する兆しが見えている。
ブランド間の移行が反転した要因について、松田氏はau Starlink Directなどの影響があると話す。店舗でも「有村(架純)さんが写っているポスターはなに?」「衛星のサービスに入りたい」という声があるという。「au Starlink Directなどが内包されているのはauの大きな価値」と松田氏。また、年齢層で料金が変わる比較的廉価なプランも人気で、これも効果があったという。
さらに、時期は未定ながら「auマネ活プラン」の強化も見据える。NTTドコモが、住信SBIネット銀行とともに「d NEOBANK」を立ち上げるなど、競合他社の動きも出てきたことに対して、2025年度下期に向けては、モバイル事業で通期で300億円の増益を目指している。
注力領域と位置づける事業では、エネルギー関連事業とローソン関連が順調に進捗した。一方で金融とビジネス事業は期初からの事業環境の変化により、戦略を転換する。
金融関連では、預貸率の向上を目指す。預金金利が上昇する中、従来の住宅ローンを重視した戦略から転換する。銀行と証券の連携も深めながら、クレジットカードは「会員数拡大が急務」として成長を急ぐ。
ビジネス事業(DX)は、前年同期比で増益を果たしたものの「ややスロー」(松田氏)で、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業の受注減やSI事業での開発遅れ、受注抑制などが影響した。しかし、松田社長は各事業での減益要因の解消目処はついていると話し、9月には増収増益に反転しており、この流れを維持したいとした。
BPO事業のアルティウスリンクでは、既存サービスシェアの防衛やAI活用によるサービス領域の拡大を図る。ほかに北米におけるBMWへの通信サービス提供、ドローン事業の官公庁・自治体の顧客開拓などで下期の成長継続を目指す。
次期中期経営戦略に向けて、AI時代を見据えた「次世代インフラへの変革」と「付加価値・成長領域のさらなる拡大」、加えて「見込みのある分野への投資」を重要なテーマと位置づける。投資の面では、具体的には決まっていないものの一部事業の撤退も視野に入れる。
ネットワークの高度化では、5G基地局への投資を継続。今年度末までに5G SAの人口カバー率90%超えを目指す。また、松田社長はミリ波の実用化にも力を入れる。すでにJR東日本、ソニーなどと実証実験を重ねている。
現状ではミリ波に対応するスマートフォンは少ない。しかし松田社長は「個人の思いも強くある。しっかりとビジネス化していかなくてはいけない」と強調する。利用シーンがないためにミリ波端末が見送られるという「負のループ」を解消したいと実証実験の意図を明かす。
そのうえで、世界的にミリ波が普及しないのであれば、日本から利用シーンを作り、他国に展開したいとも話す。ミリ波用のレピーターも開発中としたほか「端末メーカーとの交渉も自分が陣頭指揮を取りたい」と熱意を示した。
さらにAI時代に重要なインフラとなるデータセンター事業も加速する。ロンドンには6棟目の「TELEHOUSE」を建設し、2028年の開業を予定している。これによりロンドンのデータセンターの供給電力は57MWになる見込み。国内でも大阪府堺データセンターも2026年1月に稼働させる。
サービス面では、パートナー企業のコンテンツにソースを絞ったAIサービスの開発やローソン店舗での新たな購買体験の提供、ドローン配置実証実験などに取り組む。
――NTTドコモは9月商戦が厳しかったというが、KDDIではどうか?
松田氏 (モバイル事業は)構造改革を断行している最中です。ARPUの向上や解約率、ブランド間移行、セット率とあらゆる面で良い効果が顕在化してきました。他社の過熱気味な販促コストをかけた競争に真っ向から対抗している意識はありません。どちらかというと販促競争よりは「商品力の競争」という価値を高めています。
通信ネットワークの品質やStarlinkの商品力での勝負をしているという認識なので、(他社とは)一歩引いた形でして、対抗しているという認識はありません。
――料金改定は「値上げ」と捉えられている面もあったと思うが。
松田氏 これまで価値づくりをしてきたことが今のネットワークの品質にもつながっています。その価値づくりやStarlink、au 5G Fast Laneなども受け入れられたと認識しています。
――5G SAのエリアが広がることには、ユーザーにとってどのようなメリットがあるのか? SAならではのサービスや優位性についてはどう考えているか?
松田氏 コンシューマー向けとエンタープライズ向けがあると思います。「au 5G Fast Lane」は「ほかの人よりも速い」という追加の価値がありますが、SAになればしっかりと「保証型」というか分かりやすい価値になってきます。その前哨戦としてau 5G Fast Laneをやっていると理解いただければと思います。スマートフォンの場合、各OS提供社とも話をしていかなければなりません。そのあたりの次期を見ながら、インフラを準備していきます。
エンタープライズ向けには、そういうニーズが顕在化してきています。上り通信の速度はこれだけは確保してほしいという利用シーンが出てきていますので、環境を作っていきたいと思います。
――現状のマーケットでは短期解約はどのような状況か?
松田氏 ゼロではないと思っています。今のやり方がうまく行っている部分があるのも事実ではあるので、ここを構造改革ということで、より長く使ってもらえる方にフォーカスしてきました。
1年間の間に半分も解約されるのはやはり健全ではありません。それが他社もそういう状況だったことが明らかになってきておりましたので、そういう意味ではなんとかこの構造改革をやり抜きたいと思います。
――AIサービスはどのように提供する考えか? どのような収益モデルがあり、参画する企業にどのようなメリットがあるのか教えてほしい。
松田氏 直接的な(企業への利益としては)コンテンツプロバイダーに対してレベニューシェアをする形もありますし、間接的にはこのサービスを足がかりに送客するということもあると思います。
コンテンツプロバイダーによっては、auの顧客基盤から新しい方々に来てほしい、そのためにプラットフォームに参画したいという方もいるし、このサービスで使った部分についてはその対価をシェアとして払ってほしいという方もいると思うので、今進めている。
最初から何百社も参画するのは難しい。春から順次増やしていきたいと考えています。今の(参画を決めた)6社だけではなくもう少し増やした形で始めたい。
――新政権についての期待感を教えてほしい
松田氏 日本の課題解決と成長に向けてスピーディな動きをされているという印象です。(高市早苗首相は)総務大臣の経験もありますので、この業界にも詳しく、その点は非常に頼もしく思っています。
重点17領域のなかの情報通信、AIや量子も研究開発をしていますが、サイバーセキュリティ、防災についてもしっかり貢献をして日本の社会的な役割を果たしていくとともに価値の向上に努めていきたいと思います。