軽度の高血糖でもがんリスクを高める…日本人の死因第一位「がん」のリスクを確実に低下させる
8:17 配信
日本人の主たる死因であるがん。予防するにはどうすればいいか。医師の江部康二さんは「がんには、感染症によるものと、生活習慣病によるものがある。後者の発症要因のすべてについて、スーパー糖質制限食で防ぐことができる」という――。 ※本稿は、江部康二『75歳・超人的健康のヒミツ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。■生活習慣病が関わるがんと感染症が関わるがん がんには、生活習慣病によるものと感染症によるものとの2つのタイプがあります。 感染症によるものといっても、がんが直接うつったりはしません。たとえばC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスの感染で慢性肝炎に罹患(りかん)した場合、その一部で肝臓がんを発症することがあるということです。 (A)生活習慣病が関わるがん 世界がん研究基金が2007年に、 「腎臓がん、すい臓がん、食道がん、子宮体がん、大腸がん、乳がんの6つと、おそらく胆のうがんを加えた7つのがんには、肥満が関わっている」 と報告しています。 リスクを下げるには「適正体重の維持」が肝要であり、BMIを20〜25未満に保つことを推奨しています。 肥満は生活習慣に起因しているため、これら7つのがんは生活習慣病によるがんと呼ばれており、日本を含めた先進諸国で増加しているタイプです。 そして、生活習慣病によるがんについて、元凶ではないかと疑われているのが、高血糖であり、高インスリン血症なのです。高インスリン血症も高血糖も、肥満になると起こりやすくなりますが、この2つに発がんリスクがあることが明らかになっています。 生活習慣病が関わるがんについては、糖質制限食の中でも、最も厳格に糖質を制限する「スーパー糖質制限食」が予防効果のある可能性が非常に高いと考えられます。 なぜならば、肥満、高インスリン血症、高血糖、そしてこれら生活習慣病によるがんにつながると疑われている要因のすべてについて、スーパー糖質制限食で防ぐことができるからです。 肥満、高インスリン血症、高血糖は、いずれも糖質過剰な食生活で起こります。 生活習慣病型のがんに関しては、スーバー糖質制限食の、 ①高インスリン血症がない(高インスリン血症は発がんリスクでエビデンスあり)②食後高血糖がない(食後高血糖も発がんリスクでエビデンスあり)③肥満がない(肥満も発がんリスクでありエビデンスあり)④HDLコレステロールが増加する(HDLコレステロールにはがん予防効果あり)
という4つの利点により、予防できる可能性があります。
■細胞内の遺伝子異常が蓄積されると発症 (B)感染症が関わるがん 感染症によるがんには、胃がん、肝がん、子宮頸(けい)がんなどがあります。これらは、感染症が引き金になって起こるタイプのがんです。がんの約3割が感染症型のがんです。 がん細胞は、正常な細胞が増殖する時に、遺伝子、つまりDNAの複製に失敗して生まれてしまいます。 細菌やウイルスに感染すると、炎症を起こし細胞が頻繁に壊れます。それを修復するには細胞が増殖しなければなりませんが、この時にDNAの複製にエラーが起こり、それが蓄積されると、がん細胞が発生します。 つまり、細菌やウイルス感染により慢性炎症が起こって、それが持続し、細胞障害と再生を繰り返す機会が増えて、細胞内の遺伝子異常が蓄積されて発症するのが、感染症型のがんなのです。 持続炎症により細胞が頻繁に壊れると、細胞はそれだけ多くの増殖をしなければなりません。DNAの複製を頻繁に繰り返すため、エラーが起こりやすくなり、がん細胞の発生リスクが増すわけです。 胃がんは、ヘリコバクター・ピロリという特殊な細菌の持続感染、肝臓がんは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの持続感染、子宮頸がんの場合は、ヒトパピローマウイルスの持続感染が主な原因で、がん化を起こします。 ほかにも、EBウイルスによる上咽頭がん、ヒトヘルペスウイルス8型によるカポジ肉腫、ヒトT細胞白血病ウイルス1型による成人T細胞白血病、肝吸虫による胆管細胞がん、ビルハルツ住血吸虫による膀胱がんなどがあります。 感染症型のがんに関しては、スーパー糖質制限食でも予防は困難と考えられます。なぜなら、細菌やウイルスの持続感染を食事療法で取り除くことはできないからです。 かつて、伝統的な食生活(スーパー糖質制限食)の頃のイヌイットも、外部から新たに持ち込まれたEBウイルスのために、鼻咽頭と唾液腺のがんが多く発生した歴史があります。EBウイルスの持続感染で、特に鼻咽頭と唾液腺のがんになったのは、イヌイットの民族としての特異性とされています。 アフリカでは、同じEBウイルス感染で、バーキットリンパ腫発症が多いのです。■HbA1cとがんの関係――高血糖のリスク ここからは、血糖値や高インスリンと、がんのリスクとの関係を見ていきます。 2022年の日本人の死因の順位は、前年と同様、 第1位 悪性新生物(腫瘍)第2位 心疾患(高血圧性を除く)第3位 老衰第4位 脳血管疾患第5位 肺炎 でした。死因の第1位はがん(悪性新生物)です。 また、2020年に新たに診断されたがんは94万5055例(男性53万4814例、女性41万238例)です。2023年にがんで死亡した人は、38万2504人(男性22万1360人、女性16万1144人)でした。 2009年から2011年の間にがんと診断された人の5年相対生存率は、男女合わせて64.1%(男性62.0%、女性66.9%)、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は(2020年データに基づく)、男性で62.1%、女性で48.9%で、ほぼ2人に1人ががんになると考えてよいかと思います。 また、日本人ががんで死亡する確率は(2023年のデータに基づく)、男性24.7%(4人に1人)、女性17.2%(6人に1人)。 がんが死因に占める割合は、年齢とともに高くなっていきますが、男性では65〜69歳がピークで、この年代では、がん死亡は死因全体の半分弱を占めます。 女性では55〜59歳がピークで、死亡の6割近くが、がんによるものです。 さて、国立がん研究センターの予防研究グループの多目的コホート研究(JPHC研究)から、興味深い報告が論文化されました(※1)。
これまでのコホート研究によって、糖尿病患者では、大腸がん、すい臓がん、肝臓がん、子宮内膜がんなどのがん罹患リスクが1.5〜4倍高く、全がんも約1.2倍高いと報告されています。
■軽度の高血糖でもがんリスクが高まる 今回の報告では、非糖尿病領域の高HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値でも、全がんリスクが高いことが判明したのです。 こうなると、軽度の高血糖でもがんリスクが高まるので、注意が必要になります。 しかしスーパー糖質制限食なら、糖尿病はもちろんのこと、非糖尿病領域の軽度の高血糖もたちどころに改善させますので、全がんリスクは確実に低下すると考えられます。 HbA1cの数値と、そこから推定される血糖値は以下のようになります。 HbA1c:5.0%未満 推定平均血糖値:96.8mg/dl未満5.0〜5.4% 推定平均血糖値:96.8〜108.28mg/dl5.5〜5.9% 推定平均血糖値:111.15〜122.63mg/dl6.0〜6.4% 推定平均血糖値:125.51〜136.98mg/dl6.5%以上 推定平均血糖値:139.85mg/dl以上 この報告では、HbA1cが5.0〜5.4%を基準とすると、5.0%未満、5.5〜5.9%、6.0〜6.4%、6.5%以上、および既知の糖尿病の5群のがんリスクは、それぞれ1.27(1.06〜1.52)、1.01(0.90〜1.14)、1.28(1.09〜1.49)、1.43(1.14〜1.80)、1.23(1.02〜1.47)であり、非糖尿病域および糖尿病域の高HbA1c値の群で、全がんリスクが上昇していました(図表1)。 HbA1cは、過去1〜2カ月間の血糖値を反映する血液検査値であり、この研究結果は、慢性的な高血糖が、全がんリスクと関連することを示唆しています。 高血糖は、ミトコンドリア代謝などを介して酸化ストレスを亢進させることで、DNAを損傷し、発がんにつながる可能性が想定されています。 また、がん細胞の増殖には、大量の糖を必要とするため、慢性的な高血糖状態は、がん細胞の増殖を助長する可能性も考えられます。 ところで、HbA1cが5%未満でも、がんのリスクが上昇していますが、これは、肝硬変などがあると、見かけ上、HbA1cが低下することが多いことが関係している可能性があります。 低HbA1c値群には、臨床的には診断されていない肝臓がんやすい臓がんを有する人が含まれていて、追跡期間中に、がんと診断された可能性があります(図表2)。 肝臓がんを除外すると、HbA1c値は直線的に全がんリスク上昇と関連していました(図表3)。 糖尿病はもちろんのことですが、正常範囲内の軽度の高血糖でも、油断は禁物ということで、ますます「スーパー糖質制限食」の役割はとても大きくなります。 この報告については、国立がん研究センターのサイトで詳しい説明がありますので、ぜひ読んでみていただけたらと思います(※1)。 ほかにも、血糖値上昇と発がんリスクに関しては、国際糖尿病連合(IDF)が「食後血糖値の管理に関するガイドライン」(2011年改訂)において、食後血糖値は1時間か2時間で測定すべきであり、ピークで160mg/dlを超える食後血糖値は、がんのリスクとなるとしています。 また、韓国の研究で、空腹時血糖値140mg/dl以上で、男女とも悪性腫瘍の死亡リスクが有意に上昇するという報告(2005年)もあります(※2)。 ※1……「ヘモグロビンA1c(HbA1c)とがん罹患との関連について ―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―」※2……JAMA. 2005;293(2):194-202.----------江部 康二(えべ・こうじ)医師1950年京都府生まれ。高雄病院(京都市)理事長。日本糖質制限医療推進協会代表理事。74年京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所を経て、78年から高雄病院に勤務。2001年から「糖質制限食」による糖尿病治療に取り組む。02年、自らの糖尿病発症を機にさらに研究に力を注ぎ、「糖質制限食」の体系を確立。05年『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』(東洋経済新報社)で話題となり、以降、糖質制限のパイオニアとして活躍中。
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プレジデントオンライン
最終更新:6/19(木) 8:17