日本の女子プロレスラーがきらめく衣装で激突、米国を舞台に闘う「スケバン」

マイアミ(CNN) 蒸し暑いマイアミビーチの夜、レスラーのアトミック・バンシーが相手の顔面に鋭いキックを浴びせると、この夜の最終決戦は彼女の独壇場になった。全員女性からなる日本のプロレス団体「スケバン」の世界王者決定戦。飾りびょうを打った黒い衣装と角を身に着け、幽霊さながらの白いメイクをした王者バンシーは、派手な色のセーラー服を着たイチゴ・サヤカとぶつかり合っていた。

サヤカはリングから取材エリアへ転げ落ち、バンシーが後を追う。カメラマンや記者(筆者も含む)が一斉に道を空ける中、バンシーは挑戦者であるサヤカの頭とピンクのツインテールをつかみ、金属製の柵に叩(たた)きつけた。

最終決戦に先立ち、観客は一晩中、他の出場レスラーの名を連呼していたーー「クラッシュ・ユウ!」「ストレイ・キャット!」。女性たちによる背骨が砕けそうなボディースラムや、派手な空中技に、息をのむ声と歓声が上がる。観客はいま、サヤカがリング内外でバンシーに反撃し、ついに角をつかんで、弾力性のあるリングの床に顔面から叩きつける様子を見守っていた。

 「スケバン」のレスラーたちがマイアミビーチでの試合の舞台裏で見せた姿(CNN)

スケバンがシーンに躍り出たのは2年前。ラテックスのコスチュームやコルセット、ボマージャケットを身にまとった選手たちが、フルメイクにウィッグ、アクリルのネールという姿で激突して一躍注目を浴びた。団体名は20世紀後半の東京に現れた不良少女たちに由来し、リング上では「ハラジュク・スターズ」「チェリーボム・ガールズ」「デンジャラス・リエゾン」などの対抗チームに分かれる。タッグを組んで戦うことが多く、リング上で2対2になることもあれば、場外から的確なキックをお見舞いして味方を援護することもある。

スポーツとファッション、演劇が融合したスケバンは、英国人デザイナーのオリンピア・ル・タン氏と義兄弟のアレックス・デトリック氏、レスラーのイアン・フリード氏が共同で設立した。最近、大きなアートフェアやアニメイベントに足を運んだ人なら、その名を耳にしたことがあるかもしれない。彼らは「アート・バーゼル・マイアミビーチ」などの主要なカルチャーイベントに合わせてチケット完売の試合を行い、プロレスファンだけでなくアートやファッション畑の人も引き付けている。

スケバンがマイアミで最初期の試合を主催したのは2023年。同じように賑(にぎ)やかなアートウィークの最中だったが、この時は州間高速道路95号線の下にあるスケート場で開催した。

4試合目の途中、瀬戸レア伯爵夫人がデリリアス・ドリーに飛び蹴りを浴びせる様子/Deonté Lee/BFA.com/Sukeban

「まるで『ウォリアーズ』の世界だった」。電話インタビューに応じたル・タン氏は、ニューヨークのストリートギャングたちの抗争を扱った1979年の映画に言及しながらそう語り、「むき出しの荒々しさがあった」と振り返った。

当初の試合に音楽はなく、有名人の出演も重視されていなかったが、日本人俳優でラジオDJの野村訓市氏が早い段階からMCとして加わっていた。今月のイベントでは重低音の音楽が鳴り響き、マイアミを拠点とするラッパーJTがライブパフォーマンスを披露。リアリティー番組「ドラァグレース」出身のバイオレット・チャチキとゴットミックも2試合に参加した。(偶然にも、2人は「ノックアウト」ツアーのため移動中で、プロレスに着想を得たきらびやかでタイトな衣装をすでに着用していた)

「私たちは進化と学習を重ねてきた」。ル・タン氏はスケバンの試合についてそう語る。

 5試合のカードには、チーム戦を含め18人のレスラーが出場した(CNN)

多くの国では女子プロレスは男子の脇役だが、日本では事情が異なる。演劇的な女子プロレスが成功を収めて1990年代にブームとなり、ニッチな競技から巨大なポップカルチャー現象へと変貌(へんぼう)。現在に至るまで世界のレスリングに影響を与え続けている。ル・タン氏らの関心は、日本の女子プロレスを欧米の観客の元に届けることにあった。レスラーたちは東京に拠点を置くが、スケバンの本拠はニューヨークにある。

プロレスはもともと華やかさと力強さを併せ持ち、派手なスポーツウェアならではのファッション性も間違いなく兼ね備えていた。だがスケバンは、国際舞台でそうした側面を意図的に強調する。レスラーたちは他のプロ団体での長いキャリアを持つ(例えば、ラム会長ことアトミック・バンシーは20年のプロレス経験を持つ)が、スケバンでのキャラクターはいずれも、ル・タン氏がそれぞれの個性やファイティングスタイルを基に、この団体専用に考案したものだ。コミッショナーを務めるのは引退した伝説のレスラー、ブル中野氏で、全選手のスカウトに関わった。

試合前にリングサイドでポーズを取るディフェンディングチャンピオンのアトミック・バンシー/Ysa Perez/Sukeban

マイアミの舞台裏で、レスラーたちは黙ったまま何時間もかけてヘアメイクを受け、最終調整に入る前に夕食を済ませた。だがメイクが仕上がり、カメラが回ると、たちまちキャラクターになり切った。

黒のラテックスに全身を包んだストレイ・キャットは前足をなめるしぐさを見せ、デリリアス・ドリーは目を見開いて自身の人形を掲げた。ハラジュク・スターズに所属するサヤカのチームメートの1人、マヤ・マムシは腰に手を当ててCNNの撮影に応じ、編み込んだ青い髪を振り乱しながら、カメラマンの顔すれすれに回し蹴りを放った。

最終的にはイチゴ・サヤカが優勝し、マーク・ニューソン氏がデザインしたチャンピオンベルトを持ち帰った。ハラジュク・スターズのチームメートの姿も/Deonté Lee/BFA.com/Sukeban

メイクアップアーティストのロメロ・ジェニングス氏は「私にとっては、ほとんどファッションウィークのようなもの」と説明する。MACコスメティックスのグローバル・メイクアップ・ディレクターを務めるジェニングス氏は、パリやニューヨークのファッションウィーク、メットガラでもおなじみだ。「短時間で入念なメイクを行い、レスラーたちは汗をかいてパフォーマンスを披露する。いわばレスリング版のファッションウィーク」

ル・タン氏はキャストたちを発展途上のキャラクターと捉え、レスラーと協力して、時間をかけて外見や人格を作り上げていく。ヘアメイク中、アトミック・バンシーは通訳を通じて「今夜どうなるのか自分でも楽しみ」と語った。

バンシーは数席離れたところに座るサヤカへのメッセージとして、「首に気を付けなさい。覚悟しておくように」と言い添えた。しかし、バンシーはすぐに王座を失うことになる。2時間後、サヤカが最後の決め技を放って勝利を収めたのだ。歓声の中、サヤカはコーナーポストに登り、マーク・ニューソン氏がデザインを手掛けたチャンピオンベルトを受け取った。色分けされたひだ付きドレスを着たハラジュク・スターズの仲間たちが、次々と駆け寄った。

原文タイトル:These Japanese wrestlers throw down in latex and glitter(抄訳)

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