【大河ドラマ べらぼう】鶴屋喜右衛門役・風間俊介さんインタビュー「鶴屋さんはツンデレ。本当は蔦重が好き」「笑みは自分を大きく見せるための“武器”」「横浜流星さんは“国宝”」
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で地本問屋の主・鶴屋喜右衛門(つるや・きえもん)を演じる風間俊介さんにインタビューしました。序盤から、主人公の蔦屋重三郎(蔦重、横浜流星さん)や吉原の忘八メンバーと対立してきた鶴屋。第25回では、両者の関係が大きく変わりはじめます。灰捨て競争に参加した鶴屋の気持ちや役作り、横浜さんへの思いについて、風間さんにお聞きしました。
ヒール役は原点回帰
――蔦重と対立するヒール役が話題になっています。
風間さん:意外な役、と言われることもありますが、十代から二十代のころ、一筋縄ではいかない、何かを抱えているキャラクターを演じさせていただく機会が多かったので、今回は原点回帰のように感じています。
――鶴屋は蔦重をどう思っていたのでしょうか。
風間さん:蔦重は一代ではじめたフットワークの軽さがあり、新しいイノベーションにも挑戦できるベンチャー企業なので、うらやましく思っていたと思います。でも鶴屋さんは伝統を守る立場もあるので、彼を認めるわけにはいかず、その対立がおもしろいです。「べらぼう」はビジネスバトルの話なので、現代の働く人たちにも刺さる部分があるのかなと思いながら演じています。
――蔦重の才能は認めていたのですね。
風間さん:鶴屋さんはツンデレで、本当は蔦重が好きなんだなと思いながら台本を読んで演じています。最初は上から目線で、「ベンチャー企業もがんばっているな」と考えていた鶴屋さんですが、青本の番付で耕書堂の本が一番になったとき、蔦重が自分と肩を並べるくらいまで来た、と認識したのだと思います。
――そこで蔦重に負けたと思ったのでしょうか?
風間さん:負けたと思ったはずです。だから、その番付を読んでいるとき蔦重が訪ねてきた場面で、とっさに番付を隠す演技をしました。鶴屋さんなら、きっと自分が負けた番付を読んでいる姿を蔦重に見られたくないだろうと思ったのです。そして、「蔦屋さんの作る本など何一つ欲しくはない」と笑みをたたえる。本音が建前に、怒りが笑顔にひっくり返ったシーンで、印象に残っています。
鶴屋さんの笑みは“武器”
――第25回では、冷静な鶴屋が蔦重との灰捨て競争に参加します。
風間さん:台本を読んだとき、意外でおもしろいと思いました。鶴屋さんは、地本問屋業界の利になることは絶対に外さない人です。噴火の影響で日本橋通油町の士気が下がっているとき、灰捨て競争で士気が上がるのは良いことだけど、それをよそ者の蔦屋がやるのは良くないから、その勝負に乗り、より多くの賞金を出すことにしたのだと思います。
――真剣に競争されたのですか?
風間さん:本気で走りました(笑)。鶴屋さんのルーツは上方で、江戸支店を任されている立場です。いつもは伝統を大事にしているけれど、本当は江戸っ子の粋みたいなものにも関わってみたかったのだと思います。灰捨て競争で抑えきれない血が騒いだのかな、と解釈して演じました。でも、高めの下駄を履いて走ったので、遅いです(笑)
――なぜ高い下駄で走ったのですか?
風間さん:灰が降り積もっているから、服が汚れないように高い下駄を履いていたのです。でも店が近いから、一度帰って草履などに履き替えることもできたはずですが、そんなことをしたらヤル気があると思われそうですよね(笑)。鶴屋さんのような人なら、別に私はこんなことを真剣にやりませんよ、というスタンスだったと思います。でも、いざ走り出したら絶対に負けたくないんですよね(笑)。
――灰捨て競争の最後、蔦重が川から助け出されたあと鶴屋が笑うシーンがあります。今までの笑顔との違いは?
風間さん:蔦重との雪解けを感じさせる場面で、思わず吹き出してしまう感じで笑いました。今までの笑みは、自分を相手より大きく見せて商談を優位に進めていくための「武器」でしたが、あのときはいつもと違って心がおもむくままに笑いました。
横浜さんは国宝
――横浜流星さんの印象はいかがですか。
風間さん:国宝ですよね(笑)。本当にストイックで物静かで、作品づくりに真摯に取り組む姿はどこかミステリアスだったりするのです。そんな流星君が、あの豪快な江戸っ子の蔦重を、何のノッキングもなくシームレスに演じている姿にしびれます。女形を演じても美しいなと思いましたが、江戸っ子の所作をしても美しいのです。最近は談笑する機会も増えてきて、流星君が僕の言ったことで笑ってくれると喜びがあります。座長としてのプレッシャーも大きいと思いますので、彼の笑顔を守りたいです。
――忘八メンバーはいかがですか?
風間さん:いつも忘八メンバーたちは和気あいあいと楽しそうで、セットも明るく日が当たる感じなんですよね。それに比べると地本問屋は照明が暗くて密談感が半端ない(笑)。赤子面というパワーワードも出て、森下さんの脚本は本当にステキだと思います。
浮世絵に囲まれた学生時代
――風間さんは東京のご出身ですが、江戸が舞台のドラマに思い入れはありますか。
風間さん:僕の母校は両国中学校で、真横に江戸東京博物館があり、線路沿いの壁などに浮世絵が描かれているような環境で育ちました。今回、「べらぼう」に出演し、当たり前のように浮世絵に囲まれていた学生時代は幸せだったんだなと感じています。もともと地元愛は強く、ドラマの後に流れる「べらぼう紀行」で知っている場所が出てくるとうれしくなります。でも、今まで町のルーツを調べることはなかったので、地元を学び直したいと思いました。
――今後の見どころを教えていただけますか?
風間さん:蔦重との関係も変わり、また書物を扱う人には辛い時代がやってきますが、鶴屋さんは常に江戸の地本問屋にとって良いことを考えて行動していきます。でも、ちょっと皮肉を言うような鶴屋さんらしさは変わらないと思います。
――今後も楽しみにしています。
風間俊介(かざま・しゅんすけ)さん 1983年生まれ、東京都出身。ドラマや舞台など多方面で活躍。主な出演作は、ドラマ『3年B組金八先生』、舞台『蒲田行進曲』、NHK連続テレビ小説『純と愛』、ドラマ『救命病棟24時』など多数。NHKハートネットTV『フクチッチ』で司会を務める。大河ドラマは『西郷どん』、『麒麟がくる』に出演。 (ライター・田代わこ)