700メートル先に野生のパンダ 写真家が中国・四川省で撮影に成功 絶滅危機から一転、捉えた2枚

世界でわずか野生に約1860頭しかいない、野生のジャイアントパンダ(撮影/秋山知伸さん) この記事の写真をすべて見る

 中国・四川省の山岳地帯。かつて絶滅が危惧されたジャイアントパンダが、今も野生で命をつないでいた。野生動物写真家がその姿を捉えた。

【写真】まるで墨絵の世界!野生のジャイアントパンダを見つけることができる?

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 今年3月、中国・四川省の山岳地帯。野生動物写真家として長年活動してきた秋山知伸(とものぶ)さん(52)は、夢中でカメラのシャッターを押し続けた。

 800ミリの望遠レンズが捉(とら)えたのは、約700メートル先の崖の斜面を動く白と黒の生き物。まぎれもなく、野生のジャイアントパンダだった。やがて雪が降り始め、パンダは視界から消えた。納得のいく写真は2枚だけ。だがその2枚で十分だった。

 中国では「国宝」とも呼ばれるジャイアントパンダ。四川省の他に、陝西(せんせい)省、甘粛(かんしゅく)省の標高1300~4千メートルほどの、竹林が広がる山岳地帯だけに生息する。敏感な動物で、人の気配を察知するとすぐに姿を消してしまうため、地元の人でさえ野生のパンダを見るのは難しい。

崖の斜面に現れた野生パンダ

 そんな野生のジャイアントパンダを秋山さんは目撃した。野生動物を探しに、立ち入りが許可されたエリアを地元ガイドと歩いていると、地面に深緑色でラグビーボールのような形をした糞(ふん)を見つけた。

「すぐわかりました。パンダだと」

 笹を主食とするパンダの糞は、深緑色をしているのが特徴だ。

 続いて、遠くの崖の方角から「グオー」という、低く吠える声が響いた。

 ツキノワグマとよく似た鳴き声だが、ツキノワグマはまだ冬眠中のはず。繁殖期に入ったパンダのオス同士が争っているのだろうと直感した。

 パンダもクマの1種であるから、近づきすぎるのは危険だ。声が聞こえた方角を対岸斜面から双眼鏡で丹念に追うと、落葉樹の間に白と黒の個体が姿を現したのだ。

「パンダは絶滅するかもしれないと思っていました。それが、こんな形で野生に生きていました」


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野生のジャイアントパンダ(撮影/秋山知伸さん)

 幼い頃から野生動物に興味を持った。小学生のとき、「パンダが絶滅の危機に瀕している」というニュースを聞き、大人になる頃にはパンダは地球上からいなくなっているかもしれないと思っていた。そのパンダが、野生のもとで確かに息づいていた。

「いてくれてありがとうという気持ち。『感謝』でしたね」

 かつてジャイアントパンダは「絶滅の危機」にあるといわれた。

 毛皮を目的とした狩猟や密猟、道路やダム建設による生息地の分断などにより、1980年代後半に野生での生息数は約1千頭まで減った。90年には国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「絶滅危惧種(EN)」に指定された。

秋山さんが撮影した2枚の写真から、パンダが写っている部分を拡大した。座っているように見える

 しかしその後、状況は徐々に回復へと向かい、2014年には約1860頭にまで増えた。16年には、危機レベルがENから「危急種(VU)」に1段階引き下げられた。ここまで個体数が持ち直した背景には、「中国政府の本気の自然保護の姿勢がある」(秋山さん)。

 中国政府のパンダの保護研究は1960年代に始まった。自然保護区を設置し、野生個体の調査や、人工繁殖技術の開発、生息地の復元などを進めた。2021年には総面積2万7000平方キロメートルを超える「ジャイアントパンダ国立公園」が設立され、保護体制を強化してきた。秋山さんは言う。

「中国の動物保護の考え方は徹底しています。国立公園で人が立ち入れるエリアは全体のわずか数パーセント。残りの広大なエリアは人が立ち入ることができない野生動物エリアとして厳重に管理されています」

 パンダだけではない。

 黄金のサル「キンシコウ」、ウシ科の大型動物「ゴールデンターキン」、幻と言われた「キタシナヒョウ」――。中国では、多くの野生動物が個体数を増やしている。

「動物は子孫を増やす能力をちゃんと持っています。問題は、その環境を守れるかどうかです」


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秋山知伸さん。1973年生まれ。野生動物写真家。2001年に京都大学院博士課程単位取得退学。生態学を学ぶ。著書に『ネコ科食獣の教科書大型肉』など(本人提供)

 一方、日本はどうか。 秋山さんは、長崎県の離島・対馬にのみ生息し絶滅が危惧されている「ツシマヤマネコ」も追い続けている。

 対馬野生生物保護センター(対馬市)によると、ツシマヤマネコは1960年代には島内に250~300頭いたが、80年代以降は100頭前後で推移しているという。98年には、環境省のレッドリストで絶滅の危険性が極めて高い「絶滅危惧IA類」に分類された。

 減少した最大の要因は「増えすぎたシカではないか」(秋山さん)

 通称「ツシマジカ」と呼ばれ、狩猟によって一時期個体数が激減したため66年に県天然記念物に指定された。その後、保護政策によって個体数は順調に回復したが、森林の剥皮被害などが深刻化。そのため83年には指定地域が縮小され、駆除も再開された。2004年には県の天然記念物指定が全面解除された。

 だが、島民の高齢化による捕獲従事者の減少などで増加に歯止めがかからなかった。本来、島の自然生態系への影響が少ないとされる生息数は3500頭程度だが、現在は推定約4万2千頭に達している。

「シカは草を食べ尽くし、地面を露出させます。その土砂が川に流れ込むことで昆虫やネズミなどの小動物が減り、それを餌とするツシマヤマネコも追い詰められていきました」(秋山さん)

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