子どもこそ「本を読む時間」がない? 皮肉な現実
ここ数年で「読書離れ」「活字離れ」が急速に進む子どもたち。果たしてこの傾向は、一過性のものなのでしょうか? 『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』の著者で、読書研究の専門家である猪原敬介さんによると、一過性のものと楽観視できない理由があるといいます。それはなぜなのでしょうか。そして、このAI時代に、子どもたちはどのように読書と向き合うべきなのでしょうか。2回目は、「読書離れの裏側」です。今、子どもたちに何が起こっているのかを考察します。
子どもたちはどのくらい、自発的に本を読んでいるのか?
前回 、2021~2025年の5年のあいだに、小学生と中学生では明らかに「読書離れが急速に進んでいる」こと、とはいえ高校生には明確な不読率の上昇傾向にはなく、たった5年間のデータなので、たまたまそうなっただけかもしれないということをお伝えしました。
しかし、次のデータも合わせて考えると、そうした楽観ができる状況ではないと思わされます。 そのデータとは、拙著『科学的根拠が教える 子どもの「すごい読書」』でも紹介した東京大学とベネッセの「子どもの生活と学びに関する親子調査」のデータです(ベネッセ教育総合研究所, 2025)。
拙著ではPart1で、2015~2024年にかけての10年間で、子どもの1日あたりの勉強時間がどのように変化しているかを見ていきましたが、同じ調査で「読書時間」も調査されているので、今回はそちらを見てみましょう。
というもので、「本を読む(電子書籍を含む)」の時間が問われます。
その結果で注目していただきたいのは「学校の中でやる時間は除いてください」という部分です。学校読書調査のデータには、「朝の読書」や「授業の一環として行った読書」も含まれており、自発的に行った読書だけを捉えたものではありません。 一方、学校や仕事として行った読書を除外した読書を「余暇読書」といい、読書の中でも学力や読解力との関係が特に強いものです。
このデータは余暇読書の時間を表しているといえます。
その余暇読書時間の10年間の推移を図1に示しました。
2015年と2024年との変化だけを取り出すと、学校がある日の1日あたりの余暇読書の平均時間が、
- 小学4~6年生:21.9分 → 15.6分(28.8%の減少)
- 中学生:20.0分 → 14.1分(29.5%の減少)
- 高校生:15.0分 → 10.1分(32.7%の減少)
となっています。
減少の割合で見てみると、10年でおよそ3割減っているということになります。「勉強時間」の減少が小学生15.2%、中学生13.1%、高校生13.9%でしたから(『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』38~39ページ)、これはかなり大きな減少幅といえます。 そしてこのデータは、前回紹介した 学校読書調査データ のC枠のような直近5年間だけでなく、10年間という比較的長期のトレンドとして、読書時間の減少があったことを示しています。
学校読書調査とこのデータで結果に食い違いが生じる原因は、「1か月間に読んだ本の冊数」と「1日の平均的な読書時間」という質問の違いもありますが、おそらくはこのデータでは「余暇読書」に限っているためではないかと思います。 学校から読書を半ば強制されれば少しは本を読んでいた児童・生徒たちも、余暇の時間となれば、自由に遊びを選びます。子どもたちが自由に遊びを選んだ結果、読書が「選ばれなくなってきた」という傾向が、この10年の読書時間の減少に表れているのではないでしょうか。
私自身もショックだったものとして、「全国学力・学習状況調査」における「読書は好きですか」という質問に対して「当てはまる」と回答した児童・生徒の割合データ(2007~2025年度)があります(図2)。
第1回調査である2007年度時点では、小学6年生が45.5%、中学3年生では43.5%でした。そこから意外なことに、「当てはまる」と回答する読書好きの生徒は徐々に増えていき、2016年度調査では小学6年生が49.5%、中学3年生では46.6%となり、ピークを迎えます。 そこから2025年度までの急落は目を覆わんばかりです。
減少の割合を見てみると、
- 小学6年生:49.5% → 36.6%(12.9ポイント(26.1%)の減少)
- 中学3年生:46.6% → 30.4%(16.2ポイント(34.8%)の減少)
となります。つまり、この10年で「読書は好きですか」に「当てはまる」と回答する児童・生徒が3割前後も減ってしまった、ということです。図1にある余暇読書の平均時間も約3割減っていました。非常に示唆的な結果だと思います。
私自身、小学校や中学校の頃は読書が大好きでした。今も好きですが、あの頃はもっとのめり込むように読書に没頭していた時期です。 そのためか、読書時間が減少していても、どこかで「子どもたちは本当は読書が好きなのに、テレビやスマホに忙しくて、本のことを忘れてしまっているのだろう。本の面白さを思い出してくれれば、すぐに読書をするようになるさ」という楽観的な気持ちがありました。
しかしこのデータが示しているのは、その「読書が好き」という根本部分から瓦解しているかもしれない、ということです。これがより進行すれば、もう読書文化そのものが立ち直れないのではないか、と危ぶむ気持ちが湧いてきます。
次回は、そんな危機的読書離れの現状をもっと詳しく見てみることで、ささやかながら希望の光がある、というデータをご紹介したいと思います。
(図版制作=髙井愛)