コラム:米、イラン攻撃後の原油ショック吸収手段が急速に枯渇
[ロンドン 16日 ロイター] - 米国・イスラエルと攻撃相手のイランとの戦闘が激化する中、米国は中東産原油の供給不足から石油市場を守るための「緩衝材」が急減して底を突こうとしている。情勢がさらに悪化すれば、世界経済の減速がさらに深刻化するリスクが高まっている。
ロイターの試算によると、攻撃が3週目に突入する中で中東の重要な海上要衝であるホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界の石油供給量の少なくとも15%がペルシャ湾内に事実上閉じ込められている。
世界最大の石油輸出国であるサウジアラビアは、日量で最大500万バレルの原油を紅海のヤンブー港へ迂回させるべく奔走している。アラブ首長国連邦(UAE)も、フジャイラ石油ターミナルを通じて原油輸出を迂回させている。それでもなお、日量約1500万バレルの中東産原油が世界市場から締め出されたままであり、これは第2次世界大戦後に前例のなかった供給途絶だ。
このショックにより、北海ブレント原油先物価格は1バレル=100ドルを超え、ディーゼル燃料や航空機用ジェット燃料などの精製油製品の世界価格は急騰している。
イランの新指導者モジタバ師は、米国とイスラエルに圧力をかけるためにホルムズ海峡の封鎖を続けると宣言した。ただし、それぞれの国が船舶の航行についてイラン海軍と調整することは可能だと示唆した。
米政府は、米海軍の力でホルムズ海峡を通過できるようにすることは不可能なのを認めている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、戦闘前の原油の余剰生産能力は日量約390万バレルだった。その圧倒的大部分は中東に集中しており、サウジアラビアが日量約170万バレルを占めている。
The Hormuz deficit<ギャップを埋めようとする動き>
ガソリン価格上昇が政治的に敏感な問題なのを痛感しているトランプ政権は、過去2週間にわたって市場への圧力を緩和するために利用可能なほぼあらゆる手段を講じてきた。
米政府は12日、これまでの制裁措置の適用を免除し、海上で運ばれているロシア産原油・石油製品を各国が購入することを認める通達を発表した。米財務省は既に、インドに対して同様に30日間の免除措置を出していた。
対象となる数量は極めて大きい。海運分析会社Kplerによると、12日時点でタンカーに積載されているロシア産原油・石油製品は計約2億4500万バレルに上り、これは供給が途絶えた中東産の供給量とほぼ同規模だ。
しかし、たとえ免除措置が延長されたとしても、この表向きの数字は実際の緩和効果を過大評価している。中国とインド、トルコは西側諸国の制裁措置にもかかわらず、既にロシア産原油の大部分を購入していたからだ。つまり、この免除措置によって市場に放出される原油量は、推測よりはるかに少ないことになる。
IEAも積極的な動きを見せている。11日に32の加盟国に対し、石油備蓄から4億バレルを緊急放出する計画を発表した。これはIEAが管理する戦略石油備蓄の総量の約3分の1に相当し、前例のない規模の放出となる。
米国は4億1500万バレルの戦略石油備蓄のうち1億7200万バレルを放出する予定であり、この割合は他国を圧倒的に上回る。JPモルガンのレポートによると、米国が容易に放出できる残りの石油量はわずか1億バレル程度になる。
また、トランプ米政権は米国内の港湾間輸送に米国の船舶の使用を義務付ける「商船法(ジョーンズ法)」の適用を一時停止することも検討している。実現すれば、外国の船舶を使って米国内の港湾間で燃料や農産品を運べるようになる。
Oil exports via the Strait of Hormuz<需要の崩壊>
こうした措置を総合すると、厳しい現実が浮き彫りになる。すなわち、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が世界の石油市場に及ぼす複合的な影響を、実質的に相殺できる手段をトランプ政権が失いつつあるということだ。
供給が需要に追いつかない場合、価格が上昇するだけでなく、通常は消費も減少する。石油の場合、それは経済活動に深刻な打撃を与える可能性がある。
アジアは最も脆弱だ。アジアは原油輸入量の約6割を中東に依存しており、供給途絶による影響の全容は顕在化し始めたばかりだ。ペルシャ湾からアジアへのタンカーの航行には通常約1カ月を要するため、今後2週間で供給量は急減するだろう。
さらなる供給緩和策が講じられなければ、韓国からスリランカに至るまで各国政府は燃料の配給制を導入せざるを得なくなり、既に脆弱な経済にさらなる打撃を与えることになりかねない。
タイや日本、ベトナム、インドなどの国々は既にその方向へと動き出している。アジア各地の製油所は原油を節約するため稼働率を下げている。一部の政府は職員に在宅勤務を命じ、エスカレーターの利用を控えるよう呼びかけ、高騰する燃料価格から消費者を守るために燃料税を撤廃する動きも起きている。
ホルムズ海峡がいつ再開されるのか見通しが立たない中、世界の石油サプライチェーン(供給網)への圧力は強まっている。
米国が緊急措置の選択肢を使い果たすにつれて原油価格の上昇圧力が一段と高まり、トランプ政権に対する反発も一層強まるだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Ron is the Reuters Energy Columnist. He offers commentary on global energy markets and their intersection with geopolitics, the economy and every day life. From oil and gas to solar and wind power, the world's growing demand for energy is shaping governments' efforts to expand their economies while the world also seeks to decarbonize. Prior to that, Ron was Oil and Gas Corporates Correspondent at Reuters since 2014, covering the world’s top oil and gas companies and their transition into low carbon energy. He has broken major stories on companies including Shell, BP, Chevron and Exxon. He also looks at the physical oil markets with a focus on European refining.