量子もつれなしでも量子もつれのような通じ合いを起こすことに成功

量子もつれなしで「通じ合い」は起こせるのか? / Credit:川勝康弘

ふつうの世界では、ものとものが影響し合うには何かしらの接触が必要です。

例えば、ボールがぶつかったり手で触れたりしなければ相手に何かを伝えることはできません。

さらに、情報が遠くに届くとしても、それは光の速さを超えることはできません。

でも、量子の世界ではそんな私たちの直感が通用しません。

とくに「量子もつれ」と呼ばれる現象では、2つの粒子がどんなに離れていてもまるでテレパシーのように同時に変化します。

たとえば、1つの粒子の状態が「表」と決まると、もう1つはすぐに「裏」となります。

たとえそれが地球の反対側にあっても、銀河の端と端にあっても同じです。

これは「片方を測定したからもう片方が消去法で決まる」のでも「測定した情報や影響がもう片方に伝わって決まる」のでもありません。

2つの粒子は測定される瞬間まで、表でも裏でもない重ね合わせ状態を“共有”しています。

しかし測定すると同時にその共有状態全体が一気に決まり、遠く離れた相手の粒子も瞬時に釣り合いが取れるのです。

ノーベル物理学賞「量子もつれ」をわかりやすく解説

このような変化は私たちの直感では説明できません。

しかし、量子もつれが本当に存在することは数十年にわたる実験で確かめられてきました。

その証拠として使われてきたのが「ベルの不等式」という考え方です。

ベルの不等式は1964年に物理学者ジョン・ベルが考案した理論です。

もし世界が古典物理のルールだけで動いているなら、粒子どうしのつながりの強さには上限があります。

しかし量子もつれが存在すると、その限界を超える結果が出てしまいます。

実際、多くの実験がこの不等式を破ってきました。

そのことから「ベルの不等式が破れる=量子もつれがある」という考え方が長い間信じられてきました。

2022年には、この研究分野に取り組んできた科学者たちがノーベル物理学賞を受賞しました。

でも、ここで疑問が生まれます。

「もし量子もつれがまったくない状態でベルの不等式が破られたらどうなるのか?」

ふつうに考えると、それは「ありえない」と思うかもしれません。

なぜなら、これまで非局所的なつながりは量子もつれによってしか説明できないとされてきたからです。

しかし今回の研究チームは、違うアイデアを試しました。

それは「粒子がどこから来たのか、はっきりわからないようにする」ことです。

この「区別がつかない」という状態自体が新しいタイプのつながりを生むかもしれないと考えたのです。

たとえば、まったく同じ服を着た双子がいて、どちらがどちらかわからないとします。

そんなふうに粒子どうしが区別できないとき、量子の不思議な相関が生まれる可能性があります。

実は1990年代にも似たアイデアがありました。

Zou、Wang、Mandelという研究者たちは、光子(光の粒)がどこから来たかがわからなくなると干渉という現象が起きることを示しました。

これは「フラストレーション干渉」と呼ばれるものです。

ただし当時の実験では、こうした効果はあくまで「局所的(近くの粒子どうし)」なものでした。

今回の研究チームはこのアイデアをさらに発展させ、遠く離れた粒子どうしの間でも同じようなつながりが起こせるかを検証しようとしたのです。

果たして本当に量子もつれなしに量子間の通じ合いが可能だったのでしょうか?

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