「35歳以下は節約しか知らない」 シャープが“野性味”を取り戻すために選んだ、オール日本人体制への回帰
シャープが2025年4月からスタートしている中期経営計画では、創業の精神にこだわり、「シャープらしさ」を取り戻すことを基本姿勢としている。
シャープの代表取締役 社長執行役員 CEO 沖津雅浩さんは「シャープは2012年から経営危機に陥り、鴻海傘下の下で『節流』(節約すること)を前提に行動をしてきた。これからは、もっともっと外に出て以前の元気なシャープの時代に戻し、『シャープらしさ』の復活を目指す」と意気込む。
そして、2027年度までの3年間を「再成長」のフェーズと位置付け、経営指標として2027年度の営業利益で800億円、ブランド事業での営業利益率7.0%以上を目指す。
2回に渡って掲載するインタビューの前編では、沖津浩さんに中期経営計画で取り組む「シャープらしさ」の復活の現状などについて聞いた。
―― シャープは2024年度を「構造改革」フェーズとし、2025年度からの中期経営計画を「再成長」フェーズと位置付けています。沖津さんが2024年6月に社長に就任してからの1年半で、どんな成果がありましたか。
沖津 当社はデバイス事業のアセットライト化を進める一方で、ブランド事業に集中した事業構造を確立することを明確にし、それに向けた構造改革に取り組んでいます。デバイス事業のアセットライト化では、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の液晶パネル生産を停止し、グリーンフロント堺の主要資産をソフトバンクやKDDI、積水化学工業に売却しました。
また、液晶パネル生産の亀山第2工場は2026年8月までに鴻海に譲渡し、カメラモジュール事業と半導体事業も鴻海の子会社に譲渡することになります。デバイス事業のアセットライト化は、スピード感を持って実行できたと考えています。
一方で、ブランド事業に集中した事業構造の確立を進めており、そこでも、変革に取り組んでいます。成長への布石を打ち、再成長に向けた基盤を構築できているという手応えがあります。
―― ブランド事業では、どんな取り組みがありますか。
沖津 1つは、TVのコモディティーモデルは、当社自らは作らないことに決めました。ここに、人/モノ/カネはかけません。当社自らが設計/開発し、生産するのは、付加価値のあるモデルだけです。ミドルレンジ以上の付加価値製品は自ら設計し、TVであれば中国・南京の自社工場で生産し、戦える製品を投入していきます。
一方で、付加価値を持たない普及モデルは自社で生産してももうかりませんし、むしろ在庫がたまる要因になります。TVは中国の南京で作ったキットをマレーシアで組み立てて、それをインドネシアやフィリピン、ベトナムなどの消費地に送るというような仕組みであり、その結果、それぞれの場所に滞留在庫が生まれやすい構造にありました。
差別化できない製品であれば、在庫リスクを持つのではなく、ODMから直接現地に送ってもらった方が効率がいいといえます。そこで、普及モデルは海外ODMを活用して、生産することにしたわけです。
TVにおいて普及モデルの品ぞろえは必要ですが、コストだけを追求する領域で戦うつもりはありません。もちろん、それらのTVについても当社が差別化できるものを何か1つ搭載し、付加価値を高めるための努力はしていきます。
私は、これをもっと早くやるべきだったと思っています。しかし、これまではTV事業にしがらみがある人たちが判断していたので、そこに踏み出すことができませんでした。私は社長に就任するまでの44年間のうち、2年間を副社長として本社に勤務しましたが、後の42年間は白物家電一筋で働いてきました。TV事業にもしがらみがありませんし、デバイス事業にもしがらみがありません。何がいいのかを客観的に判断し、手を打つことができます。
―― 裏を返せば、白物家電事業にはメスを入れにくいということになりませんか。
沖津 私は白物家電事業も聖域だとは考えていませんし、必要なことはやっていきます。ただ、これまでにも白物家電事業は、事業が拡大しても人は増やさずに工夫をしてきた経緯があります。エアコンも好調なときに中国の自社工場での生産を止めて、普及モデルはODMからの調達に切り替えました。
これは、私が本部長時代の話ですが、このときにも技術部長にはエアコンの設計にしがらみのない人材を据えました。2024年秋には、TV事業本部長にTV事業の経験がない人材を据えました。大胆な構造改革をやるには、しがらみのない人がやるのが一番早いと思っています。
ただ、大胆な改善策を打つと一部の社員から嫌われることになるのは当然です。現場の人たちにとっては、それぞれに愛着がある事業ですからね。しかし、嫌われることは仕方がありません。会社が生き残ることが最優先です。
そして、このとき大切なのは公平にやるということです。これは外してはいけない要素です。私は、シャープの構造改革は電機各社の中で最も遅れていると認識しています。やることはまだまだあります。ダラダラするのは一番よくない。まずはやってみる。やってみて駄目だったら、元に戻せばいい。それぐらいのつもりで取り組んでいます。
―― その一方で、変えなかったところはどこですか。
沖津 私は、全社員が創業の精神である「経営理念」や「経営信条」にこだわり、シャープらしさを取り戻すことが、中期経営計画の遂行において重要だと思っています。2025年4月に「Our Mission」として、「独創的なモノやサービスを通じて、新しい文化を作る会社へ」を掲げました。これは、シャープの経営信条や経営理念にのっとったものです。
当社が目指す姿は変わっていません。そして、これをより分かりやすく対外的にも発信するメッセージとして、2025年9月に、新たなコーポレートスローガン「ひとの願いの、半歩先。」を発表しました。この新たなスローガンの元、独創的なモノやサービスを次々と創出し、中期経営計画を着実に推進することを目指しています。
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―― かつての「シャープらしさ」と、これからの「シャープらしさ」は、目指すところは同じですか。
沖津 当社の「目の付けどころ」の姿勢と、シャープが持つ「特長技術」との組み合わせに加えて、当社が鴻海の傘下で学んだ「スピード」が加わることが、これからのシャープらしさの実現につながります。
日本の企業は、中国メーカーや台湾の企業に比べてスピードが遅いのは明らかです。今後、日本の企業がスピードなしで発展することはあり得ません。スピードがあってこそ、これからの競争を勝ち抜けます。鴻海を見ていると、お客さまとの商談において言われたことに対しては「ノー」とは言いません。厳しい条件でも、まずは仕事を受けて、それから考えるという姿勢です。しかし、当社は1回戻って事業部と相談し、その後に正式に回答をする。結果として、商談を逃してしまうことが多かった。
グローバルの顧客は、まず早く受注し早く対応してくれることを優先しています。商談で示された納期が2カ月後であったが、結果として2カ月半や3カ月になってしまっても謝れば済む。日本の常識では許されないが、これがグローバルの常識だとすれば、当社はそれに全く対応ができていなかった。
日本人は『検討します』という言葉が好きだが、それでは戦いには勝てません。まずは、その場で、しっかりと返事をするという仕事の仕方をしなくてはならない。できないのならば気を持たせずに、その場でノーと答えることも大切です。社内ではそんな話をしています。
―― シャープのスピードは速くなっていますか。
沖津 社内のスピードは上がっています。かつての当社では、月1回開催される経営戦略会議を待って本社決裁を行っていました。経営戦略会議が開催されるまでの期間は決裁が下りないため、待つしかありませんでした。しかし、鴻海傘下になって以降は、全役員が毎週金曜日に集まって決裁をしていますし、もし最優先する決議事項が午前中に提案されれば、午後にはTV会議で全ての役員が集まり、決裁するといったケースもあります。
さらに今は、どんな日でも午前8時には全役員がオンラインでつながることができますから、そこで優先する事項を決裁することも可能です。
―― 現在、執行体制は全て日本人になりました。これは、自然と遅いスピードに戻ることになりませんか。
沖津 そうならないように注意していかなくてはなりません。確かに、2016年に鴻海傘下になった時点では、CEOを始めとして全ての事業部門に鴻海グループの社員が関与していました。
しかし私が社長に就任した時点で、鴻海から出向していたメンバーは戻り、日本人だけで執行する体制となっています。当社の既存事業はシャープがやるのがいいと鴻海側が判断したことが背景にあります。
鴻海は、世界最大のEMS(電子機器製造受託サービス)であり、同じ仕様の製品を大量に作ることが得意です。その体制を生かして、当社にもメリットが生まれると見込んでいたわけです。しかし、徐々に鴻海とシャープでは得意分野が違うことが分かってきました。
当社の白物家電や複合機は付加価値が高く、鴻海の工場では作りにくい。また、仮に作れる領域の製品があったとしても、当社が必要とする生産量は鴻海が外部から受注している数量に比べて2桁も少なく、その規模では生産コストを下げることはできませんでした。当社が必要とする規模の生産量は、鴻海にとっては、むしろ不得意な領域だったのです。
2022年頃から、もう一度シャープを見直そうという動きが始まり、節流を背景に縮小していた開発投資を増やし、人材を育成するための社員研修も復活させました。また、鴻海本体の董事長が変わり、方針が変更され、当社の製品開発は当社の社員に任せた方がいいということになりました。
加えて、鴻海自らも市場環境の変化の影響を受けてモノを安く作り、節約して、利益を出すことにとどまらず、EVやAIサーバ、ロボティクスといった新規事業をやらないと生き残れないと考えるようになりました。
当社は厳しいときにきちんと節流を行い、その成果を元にして、その後の鴻海の方針転換によって日本人による執行体制を構築し、その体制で事業を遂行しているというわけです。
―― 現在、シャープのCxOは全て日本人になっていますね。
沖津 今、CFOやCTOに加えて、新規事業を担当するCBDO(Chief Business Development Officer)、社内DXを推進するためのCDO(Chief Digital Officer)を新設し、私を含めて5人のCxOがいます。
それぞれが違う知識を持っていますし、見方が違う人材です。私にはない部分を持つ4人を集めたのです。しかも、それぞれが全く異なる性格であり、それぞれに得意とする領域が異なります。9月に発表したコーポレートスローガンを決めるときも、誰一人として私に忖度(そんたく)せずに自分の意見を言ってましたよ(笑)。
30分で終わっていた取締役会が、議論が白熱しすぎて2時間30分もかかることもあります。通訳を入れずに話せますからガンガン言いますし、トップの意思だけで、一方通行で決まるということもありませんから議論はかなり深まっていますよ。
CxOや本社部門に対しては、事業を推進するビジネスグループから「好かれる本社」になろうといっています。本社に提案しても、何もやってくれないという状況では社員がやる気をなくすばかりです。IT部門も、言ったらすぐにやってくれるようにしなくてはいけません。これも変えたところですね。
また、スマートライフビジネスグループとスマートワークプレイスビジネスグループのトップには、Co-COOとして50代半ばの社員を登用し、事業を推進する体制としました。また、Smart Appliances & Solutions事業本部長や、スマートビジネスソリューション事業本部長も若返りを図りました。
今、私が社内に言っているのは、社員も本部長もビジネスグループ長も執行役員も、どんどん外に出ようということです。従来は社内会議に縛られてしまい、外に出る機会が減っていた状況にありました。
しかし、グローバルがどう変化しているのかを感じるには、現場に行かないと分かりません。新しい技術や新たな事業に触れることで気付きが生まれ、それが次の議論にもつながります。机上だけで考えたり、ネットを見たりといっただけではアイデアは生まれませんからね。
私自身も積極的に外に出ていくようにしています。先日もヨルダンに行ったときには現地の家庭にお邪魔して、キッチンの様子だけでなく冷蔵庫の中まで見せてもらいました(笑)。
スーパーに寄って冷凍食品の売り場も見てきましたよ。日本では、500Wや600Wでチンすればいいと思ってしまいますが、海外で販売されている冷凍食品には700Wと書いてあるものも多い。それに対応した電子レンジを出さなくては、その市場では受け入れられません。しかも、電子レンジを調理に使うという文化がまだ育っていない国が少なくありません。現場には発見につながるものが山ほどあります。
これが、「目の付けどころ」を見つける最大の近道ですよ。
※近日公開の後編に続く
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