気候変動によってアメリカでは山火事の煙による死者数が2050年までに年間7万人に達する可能性がある

サイエンス

近年はアメリカやオーストラリアで大規模な山火事が頻発しており、2025年にカリフォルニア州で起きた山火事では火災の範囲が東京23区の面積のおよそ3分の1に及び、少なくとも29人が死亡したほか、1万8000棟を超える建物が被災しました。新たに科学誌のNatureに掲載された論文では、アメリカでは地球温暖化によって山火事の煙による死者数が増加し、2050年までに年間7万人に達する可能性があると報告されました。

Wildfire smoke exposure and mortality burden in the US under climate change | Nature

https://www.nature.com/articles/s41586-025-09611-w

U.S. faces rising death toll from wildfire smoke, study finds | Stanford Doerr School of Sustainability https://sustainability.stanford.edu/news/us-faces-rising-death-toll-wildfire-smoke-study-finds

Wildfire-smoke-related deaths in the US could climb to 70,000 per year by 2050 due to climate change, study finds | Live Science

https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/wildfire-smoke-related-deaths-in-the-us-could-climb-to-70-000-per-year-by-2050-due-to-climate-change-study-finds 近年、山火事が発生する頻度と規模が増加しています。これは、地球温暖化の気温上昇に伴って土壌水分が減少し、植物が乾燥して可燃性が高まったことが原因と見られています。また、ひとたび山火事が発生すると乾燥した植物と暖かい空気が相まって延焼を促し、より消火が困難になっているという事情もあるとのこと。加えて、山火事が増えると有機物の燃焼によって排出された温室効果ガスが地球温暖化を促進し、さらなる山火事を引き起こすという一種のフィードバックループも形成されています。

山火事は家々を焼いたり森林を破壊したりするだけでなく、微粒子や煤(すす)などの汚染物質を排出することで、人々の健康に被害をもたらします。微小粒子状物質(PM2.5)として知られるこれらの粒子は人間の髪の毛の「約28分の1」という細かさで、口や鼻、目の粘膜などに付着し、短期的に炎症や咳、焼けるような痛み、皮膚疾患の悪化などを引き起こす可能性があります。

さらにPM2.5を肺に吸い込むと、ぜん息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった既存の呼吸器疾患を悪化させる場合があるほか、PM2.5が血流に入り込むと心臓を刺激し、心臓発作や冠動脈疾患のリスクを高めるとのこと。山火事は数日~数週間にわたって多くの人々を汚染物質にさらし、直接的な被害者以外の死亡者数を増加させるそうです。

スタンフォード大学やニューヨーク州立大学ストーニーブルック校などの研究チームは、山火事の煙にさらされることによる人的・経済的損失を算定するため、アメリカ全土における2006年~2019年の郡レベルの死亡記録を分析しました。さらに、これらの記録と地上における煙排出量および風の測定値を組み合わせ、機械学習を用いて北アメリカ全土の山火事で生じたPM2.5の移動をモデル化しました。 次に研究チームは、煙濃度の変化と過去の死亡率の変動を関連付けて分析し、地球規模の気候モデルを用いて2050年までのさまざまな温暖化シナリオにおける将来の山火事活動、排出される煙のレベル、および健康への影響を予測しました。

研究の結果、アメリカにおける山火事の煙に起因する死亡者数は、2011年~2020年は年間4万1380人に達することが判明。地球の気温が産業革命以前の水準よりセ氏2度上昇する現状の地球温暖化シナリオでは、2050年までに山火事の煙による死亡者数が70%以上増加し、年間で7万1420人に達する可能性があるとわかりました。 山火事の煙による死亡者数の増加が最も大きいと予測されているのはカリフォルニア州で、2050年までの追加死亡者数は年間5060人と推定されています。次に多いのはニューヨーク州で年間1810人、続いてワシントン州の年間1730人、さらにテキサス州の年間1700人、そしてペンシルベニア州の年間1600人と続きます。 さらに研究チームは、現状の地球温暖化シナリオにおける山火事の煙に関連する死亡を金額換算すると、2050年までに年間6080億ドル(約89兆7000億円)に達する可能性があると推定しました。この推定損失額は、気候変動に起因する農業損失や暴風雨の被害、気温上昇に関連する死などを含む、その他の損害の推定損失総額を上回っています。

論文の筆頭著者であり、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の助教を務めるミンハオ・チウ氏は、「私たちが観察しているのは、他の調査結果とも一致する全国的な山火事の煙の増加です。西海岸ではより顕著な増加が見られますが、カナダでの火災に起因する東部および中西部での大規模な煙イベントを含め、山火事の煙がアメリカ国内全域に長距離で移動する現象も確認されています」と述べています。 また、論文の共著者であり、スタンフォード大学環境社会科学教授を務めるマーシャル・バーク氏は、「山火事の活動と煙への暴露が急速に変化していることは、広く認識されています。残念ながらこれは西海岸の人々にとっての過去10年間、そして東海岸の人々にとってここ数年にわたる実体験です」と述べ、妊婦や子どもたち、ぜん息の患者など、アメリカ全土の人々が山火事の煙の影響を受けることになると主張しました。

先ほど入力したメールアドレス宛に件名「GIGAZINE無料メンバー登録のメールアドレスの確認」というメールが送信されているので、「メールアドレスを確認するには、次のリンクをクリックしてください。」の部分にあるリンクをクリックして、認証を完了してください。メールが届いていなければ、この直下にある「確認メールを再送信する」をクリックしてください。

関連記事: