米フロリダのサンゴ、異常な海水温上昇で「機能的絶滅」 世界のサンゴ礁への「警告」と研究者
死滅したエルクホーンサンゴ=2023年11月28日、フロリダ/The Washington Post/Getty Images
(CNN) 米フロリダ州沖で海水温の記録的な上昇の後、サンゴ礁を形成していた「エルクホーンサンゴ」と「スタッグホーンサンゴ」が生態系での役割を失う「機能的絶滅」に追い込まれたとする研究が、このほど発表された。
シカの角のようなエルクホーンサンゴとスタッグホーンサンゴは、1万年前からフロリダの主要な造礁サンゴだったが、病気や汚染、ハリケーン、海水温上昇などの要因が重なって絶滅が危ぶまれていた。そこへ過去に例のない海洋熱波が襲い、致命的な一撃となった恐れがある。
フロリダの海水温は2023年にピークに達し、32度を超えた。これは少なくとも150年ぶりの最高記録だった。
サンゴにとって高温ストレスは命取りになる。サンゴの色やエネルギーのもとになる共生藻類が排出され、幽霊のように白い骨格が露出する。通常の海水温に戻れば回復することもあるが、温度上昇が激しく長期にわたれば、それだけ死滅の可能性は高まる。
23年にフロリダを襲った熱波は約3カ月続いた。高温が長引くなかで、研究チームは海に潜り、エルクやスタッグホーンを含むミドリイシ属のサンゴ5万2300個体を詳しく観察した。対象の海域はフロリダ州南西部のドライ・トートゥガス、フロリダ・キーズから州東部沿岸のセント・ルーシー入り江まで、全長約560キロのサンゴ礁全体に及んだ。
研究報告では、この海洋熱波でコロニーが機能的絶滅に陥ったとされた。機能的絶滅は、完全消滅の前の段階となるケースが多い。
研究を率いた米シェッド水族館の生物学研究員ロス・カニング氏によると、エルクホーンとスタッグホーンは一部残っているものの、「もはや生態系での役割を果たせる、つまりこの例ではサンゴ礁の構造を形成、維持できるほどの密度ではなくなっている」という。
生き残っている部分は主にサンゴ礁の北端付近にあるが、ここも病気や捕食者、嵐の被害を受けやすい。
カニング氏はCNNに、サンゴが死ぬと連鎖的に影響が広がると話し、「サンゴ礁の成長が遅くなって生息地の複雑性が低下し、魚や無脊椎(むせきつい)動物が隠れ場所や食料源を失う」と説明した。海岸が嵐や浸食にさらされやすくなるという影響もある。
研究チームは論文に添えた声明を通し、この結果は「世界のサンゴ礁の将来に向けた厳しい警告」だと主張した。
英エクセター大学の最近の研究では、世界の暖海に分布するサンゴ礁はすでに気候変動による臨界点を越え、地球温暖化が逆転しない限り、一定規模のサンゴ礁はすべて消滅するだろうとされた。
今回の研究は、フロリダでミドリイシ属のサンゴが自然に回復するとは考えにくいと結論付けている。気候変動の予想からみて、重度の白化は40年まで毎年起こり、海水温は今後も上がり続けて、ほかの種類のサンゴもおそらく死滅するという。カリブ海全域で今後数十年のうちに、複数の種類のサンゴが地球上から完全に姿を消すこともあり得る。
フロリダのサンゴを増やすため、海中、陸上の両施設でコロニーの人工繁殖が試みられてきた。チームによれば、その成功は今後の白化現象の頻度と程度にかかっているという。
カニング氏はこの研究について、「絶望のメッセージ」ではなく、行動への呼びかけと解釈してほしいと強調。「さらなる喪失を防ぐための残り時間はなくなりつつある。それでも、的を絞った介入と気候変動対策の積極的な行動で変化をもたらすことはできる」と主張した。