外国人に働いてもらいたいなら「墓場まで」に向き合うべき。 宮城の問題「土葬」専門家は「その場しのぎではない冷静な議論を」と指摘

宮城県内での土葬墓地設置を目指していた村井嘉浩知事が9月18日、検討の「白紙撤回」を表明しました。

『ルポ 日本の土葬ー99.97%の遺体が火葬されるこの国の0.03%の世界ー』(宗教問題)の著者であるジャーナリストの鈴木貫太郎さんに、一連の宮城県の出来事をどう分析するのか、外国人労働者と「墓地」について、話を聞きました。

ジャーナリストの鈴木貫太郎さん

これは日本の象徴的な出来事だと感じました。今回、宮城県のトップである知事が土葬墓地の設置を模索したわけですが、墓地については、トップダウンで号令をかけたところで、今の日本で実現できる問題ではない、簡単にできるものではないということが明らかになったと思います。 

墓地建設の許可権限は、地方自治体に移譲されています。法律的には、地元の自治体と当事者が解決すべきという主張が行政の基本的なスタンスだと思います。

村井知事の土葬墓地設置に賛同し、墓地建設を認める市町村長が宮城県下に現れれば、論理的には建設に辿り着くことは可能だったと思います。賛同する市町村長がいなかったということだったと思います。

ただ、少子化に伴う労働力不足で、国をあげて海外から外国人労働力を受け入れている施策が取られているのが今の日本です。宮城県でも、その流れを受けているわけですが、村井知事は、複雑な問題から目を背けずに向き合ったと言えるのではないかと思います。 

ーー宮城県内では、「土葬が必要だ」とする声があったと聞きます。

私の取材ですと、例えば宮城県石巻市でも、石巻に移住し、東日本大震災の復興に尽力したイスラム教徒の外国人らが、土葬墓地の設置を求めていた事例があります。

例えば、彼らが石巻市にモスクを建設した時には、地域に馴染むために、日本人支援者と一緒に地元の人たちと芋煮会をして交流を深め、理解を深めていったそうです。芋煮会も、イスラム教徒用にハラール芋煮を作ったと聞いています。トップダウンではなく、ボトムアップで理解が広まった良い事例だと感じました。 

地域で理解が広まるということが大切だと思うのですが、いくら行政や土地所有者など土葬墓地設置の権限を持つ人たちが土葬墓地設置の意義を理解し、ゴーサインを出しても、反対派の声によって設置を断念したという事例もあります。 

墓地の権限は地方自治体に移譲されていますが、行政区外からの反対意見に大きな影響を受ける場合もあり、制度が実態に全く追いついていない状態です。

ある地域で建設される土葬墓地に関する議論で、直線距離で1000キロ以上離れた自治体の住民からの苦情はどこまで許容され、検討されるべきなのかという課題も残されていると思います。 

ーー日本には全国に約10カ所、土葬ができる墓地があると聞いています。

著書の中にも登場しますが、日本でも地域の伝統的な風習として土葬をしていた地域はあります。決して特定の人種や宗教だけに限りません。また土葬できるものの、公表されていない場所もあり、小さいものを含めると10カ所よりも多くなると思います。信者しか入れない場所もあります。

取材を試みた墓地もありましたが、「静かに生きていくので、そっとしておいてほしい」と取材拒否されたこともあります。ひっそりと静かに弔われたいという思いの根底には、やはりそれだけ土葬は、今の日本では非常にセンシティブなものなのでしょう。

ーー土葬による環境汚染や、水質汚染などを心配する声もあります。 

私が取材した範囲では、現状ある土葬墓地で、そうした問題は起こっていませんでした。土から離れて生活してる方が多いのが現代の日本人なので、「土の中に埋めるのは不衛生だ」と感じる方がいらっしゃるのだと思います。

ーー今回の「土葬墓地設置」には大きな批判が集まりました。その根本には何があるのでしょう。

今の日本では、土葬に馴染みのない人が多いということも大きいでしょう。しかし、土葬は日本国の法律で禁止されていません。権限は地方自治体に委ねられていて、条例で土葬を禁止している市町村区はあります。

人間の弔われ方は誰にとっても大切なものという点は、皆が共通理解としてあると思います。著書にも書きましたが、厚生労働省の衛生行政報告例によると、2020年度に日本で行われた葬送の総数は約143万件。そのうち、99・97%は火葬です。土葬はわずか393件の0・03%しかありません。そのうち、300件は死産の胎児で、成人は93件しかありません。

ーー特定の宗教に対する批判や、「外国人受け入れ施策」に反対する意見も多くありました。

土葬と「外国人受け入れ問題」をそのままイコールで考えることはできないと思いますが、土葬への反対は、政府がこれまでとってきた外国人受け入れ施策に対する反発や歪みが、目にみえる形でここで出たのだと考えています。

例えば政府は長年、一定規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れる政策を「移民政策」と定義した上で、「移民政策はとらない」という立場を堅持してきました。一方、深刻な人手不足に対応するため、実質的に外国人労働者を受け入れてきました。

確かに在留資格には期限があります。しかし実際は、日本に永住したり、さらに労働者の家族も来日し、子どもも日本で成長しているケースは多くあります。帰化している人もいるし、日本で生まれた人もいるでしょう。 

「日本は少子化で労働力が足りない。ぜひ日本に来てほしい」と海外から来てもらっている現状があるにも関わらず、政府は「移民政策はとらない」といい、その場しのぎの対応をずっとしてきたわけです。 

今は、少子化で労働力が不足しているという観点から、政府は技能実習生などの外国人労働者の受け入れを進めています。

ここ数年で、日本に住む私たちも、いろいろな場所で働く外国人の姿に接する機会が増えたと感じている人は少なくないでしょう。

政府のいう「移民政策をとっていない」はずの日本社会で、短期滞在・長期滞在含めて、多くの人が外国人に接する機会が増えたと感じている。一方的な政府の主張に矛盾を感じ、不安に思う人もいると思います。

とはいえ、土葬と移民の問題は単純にイコールで考えることはできないと思います。実際に日本では、古くから慣習として土葬文化がありますし、人種や国籍に関わらず、土葬を希望している人たちはいるからです。単純化できない問題だと思います。

ーー日本が受け入れる外国人労働者に対して、弔い方の議論がされてこなかったのはなぜなのでしょうか。

政府は外国人労働者や留学生などは「いずれは母国に帰る人たち」と捉えているわけなので、受け入れた外国人に対して、「ゆりかごから墓場まで」といった視点は必要ありません。

より日常生活に直結した、言語や教育、保健衛生、働き方、在留許可などの施策の方が優先されてきたのは当然の流れです。ある意味、墓場の問題は盲点だったわけです。行政も官僚も、こうした問題が起こることを予期できていなかったのだと思います。

一方で国は、2024年6月に外国人労働者の技能実習制度を廃止し、新たに育成就労制度を設ける改正出入国管理法を可決・成立させました。育成就労制度では「人材の育成と確保」を目的に、条件を満たせば、事実上の永住が可能となります。

育成就労以前にも、日本に帰化したり、すでに定住していて帰化を申請中の人など、暮らしの拠点を日本に置いている人たちの中で、土葬を必要としている人たちもいます。

いよいよ国も、国民も「その場しのぎ」ではなく、この「墓場まで」に関する問題に向き合わなければいけない時が来ていると思います。

仮に外国人受け入れを抑制していくということを国が選択するのであれば、わたし達は、少子化により不足している労働力をどう補っていくかという課題に向き合わなければいけません。もし、外国人労働力の受け入れがこのまま続いてくのであれば、やはり「墓場まで」をどう考えていくのかは重要な論点になると思います。いずれにしても、冷静に議論していくことが必要だと思います。

鈴木貫太郎(すずき・かんたろう)1981年、東京都生まれ。東京電力退社後、米オハイオ州のWittenberg大学を卒業。早稲田大学ジャーナリズム大学院修了。米ニューヨーク・タイムス東京支局、フィリピンの邦字新聞・日刊まにら新聞を経て、現在フリーランス記者。

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