ロシア疑惑捜査主導のムラー元米特別検察官、81歳で死去 トランプ氏は「うれしい」

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画像説明, ロバート・ムラー元米特別検察官

ドナルド・トランプ米大統領の第1期目において、2016年の米大統領選に対するロシアの介入疑惑を捜査したロバート・ムラー元特別検察官が20日、81歳で死去した。

死因は現時点では明らかになっていない。BBCがアメリカで提携するCBSが死去を確認した。

家族はAP通信に対し、「ボブ(ロバートの愛称)が20日夜に亡くなったことを、深い悲しみと共にお知らせする」と伝え、「家族のプライバシーを尊重してほしい」と求めた。米紙ニューヨーク・タイムズによると家族は、ムラー氏が2021年夏の時点でパーキンソン病と診断されていたことを明らかにしたという。

ムラー氏は、2001年から2013年まで連邦捜査局(FBI)の長官を務めた。2001年9月11日の同時多発攻撃の直前に就任し、同局を現代的な対テロ機関へ再編したとされる。

ムラー氏は、結婚して約60年の妻アン・キャベル・スタンディッシュ氏、2人の娘、3人の孫を残して死去した。

ムラー氏は2017年5月に特別検察官として司法省に任命され、ロシア介入疑惑とトランプ陣営の関係を徹底的に捜査。このため、トランプ氏から激しく批判された。

トランプ氏は21日、ムラー氏の訃報を受けて自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、「彼が死んでうれしい。もう無実の人たちを傷つけられない!」と投稿した。

一方、ムラー氏の元同僚たちは、公務員として長年働いた功績を称賛。FBI長官時代に同氏が仕えたジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ両元大統領も追悼の意を示した。

ムラー氏をFBI長官に任命したブッシュ氏は、「深く悲しんでいる」と声明で述べた

ブッシュ元大統領は、ムラー氏がヴェトナム戦争で海兵隊の将校としてさまざまな功績を残した後に法律の世界に入ったことに触れたうえで、「2001年に、第6代目FBI長官としてまだ1週間しかたっていなかった時、ボブは9月11日以降、同局の任務を祖国防衛へと移行させた。FBIを効果的に率い、米本土へのテロ攻撃再発を防ぐために尽力した」と述べた。

オバマ元大統領はムラー氏について、を「FBI史上最も優れた長官の一人」としたうえで、「法治主義に徹底的に献身し、アメリカの基本的価値に揺るぎない信念を抱いていたからこそ、今の時代に最も尊敬された公務員の一人となった」とたたえた。

ムラー氏の後任だったジェイムズ・コーミー元FBI長官はインスタグラムで、「偉大なアメリカ人が今日亡くなった。私はその人から学び、共に働けて、幸運だった。もしボブ・ムラーについて知らないなら、追悼の評伝を読んで下さい。かつてそう遠くない時代の共和党は、物事を正しく行い、国に仕えることだけを目的にした、人格と理念の人々を引き寄せていた。この国が健全な国になるには、またそうならなくてはならない。彼の手本が私たち全員を導いてくれますように」と書いた。

ムラー氏がかつてパートナー弁護士として働いたウィルマー・ヘイル法律事務所は、ムラー氏が「卓越したリーダーで公務員で、最高級の誠実さを備えた人物」だったと評した。

ムラー氏は1944年生まれ。プリンストン大学で政治学を学んだ後、海兵隊に入隊し、1968年にヴェトナムへ派遣された。

中尉として小隊を率い、戦闘で2度負傷した。勇敢な行動に対するブロンズスター章や、戦場での負傷に対するパープルハート章を含む、数多くの勲章を受けた。

帰国後はヴァージニア大学ロースクールで法学を学び、1973年に卒業。複数の地区で連邦検察官を歴任し、さまざまな組織犯罪や汚職事件などを担当。1990年には副司法長官となり、複数の重大事件の捜査を指揮した。

2001年8月には、米上院の満場一致でFBI長官に承認された。オバマ大統領(当時)の要請に基づき、10年の任期は法改正による特別措置で2年間延長された。これによって、2013年に退官するまでFBI長官を務めた。

しかしムラー氏はその4年後、ワシントンを揺るがす政治的な嵐の中心に立つことになり、この役目が後に彼の評価を決定づけた。

特別検察官に任命されたムラー氏は、ロシアによる2016年大統領選への介入と、トランプ氏および陣営の関与の可能性について、捜査を指揮した。その動きが、2017年5月から2019年3月まで連日のように、国民の関心と臆測を呼んだ。

特別検察官室が提出する文書は細部まで分析され、新しい情報が出るたびに大ニュースとして扱われた。現職大統領を失脚させるのか、それとも国の分断につながるのか、受け止める側の見方によって、その評価は大きく割れた。

トランプ氏はムラー検察官の捜査を「魔女狩り」や「でっちあげ」と非難し、特別検察官を自分にとって最大の政敵の一人とみなした。トランプ氏は、自身の陣営とロシアの間に「共謀はない」と繰り返し主張した。

ムラー氏のチームはロシアの行動に加え、トランプ陣営の複数の幹部や側近を調べた。捜査は連日ニュースになったが、ムラー氏本人が公に発言することはほとんどなかった。

ムラー氏のチームにいたアンドリュー・ワイスマン氏はBBCに対し、「私は彼の全ての行動に賛同したわけではない。しかし、彼がどれほど誠実に、そして思慮深く、意思を決定していったか、人々が知るのは本当に大事なことだと思う。そして、彼がどれほど、もしかすると私以上に、アメリカ人と市民と連邦議会を信じていたか、大勢に理解してもらいたい」と話した。

ムラー特別検察官による捜査の結果、トランプ陣営幹部だったポール・マナフォート元受刑者(トランプ氏が恩赦)や国家安全保障担当補佐官だったマイケル・フリン元被告(同)らに対して、さまざまな罪状での起訴と司法取引が行われた。

最終的に448ページに及んだ「ムラー報告書」は、詳細だったものの決定的ではなかった。報告書は、ロシアが2016年選挙に「広範かつ体系的」に介入したと結論づけたが、トランプ陣営がそれに関与または共謀したと立証するには至らなかった。

報告書は、「この報告書は大統領が犯罪を行ったとは結論していないものの、無罪を認定するわけではない」としている。

ムラー氏は2021年2月、MSNBCのインタビューに応じた。同氏によるこうしたインタビューは異例で、長い経歴の重要な出来事を振り返る内容だった。

ロシア疑惑ほど政治的に難しい捜査をなぜ引き受けたのかと問われると、ムラー氏は次のように答えた。

「私にとって、公共に奉仕することは、非常に大きい喜びを与えてくれることだった。そして、自分にとって大きな挑戦となる任務は、なかなか断りがたいものだ」

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