特集 - 株探ニュース
政府は5月30日、2024年度版の「食料・農業・農村の動向(農業白書)」を閣議決定した。このなかで24年6月に食料・農業・農村基本法を改正した経緯や盛り込んだ施策の方向性などが紹介されるとともに、ロボットや人工知能(AI)などを活用した スマート農業の将来を展望した特集が掲載された。新たな食料・農業・農村基本計画では30年までにスマート農業技術を活用した面積の割合を50%(24年は約20%)まで高めるKPI(重要業績評価指標)が設定されており、農林水産省は農業の効率化を一段と推進する構え。小泉進次郎農水相が就任記者会見で「スマート農業技術の活用を後押しする」と述べたこともあり、関連企業のビジネス機会が広がりそうだ。
●農水省は普及発展に向け本腰ロボットやAI、IoT(モノのインターネット)といった情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業技術により、農業の生産性向上を図る取り組みが広がりをみせている。例えば、 ドローンによる農薬などの散布面積は22年度の82万4000ヘクタールから23年度には109万7000ヘクタールに拡大。また、圃場(ほじょう)内を自動走行するロボットトラクターやスマートフォンで遠隔地から水田の水管理を行うことができるシステム、位置情報と連動することで作付け情報や営農計画などを電子化できる営農管理システムなど農作業を自動化・省力化する取り組み、ドローンから得られたセンシングデータに基づき農作物の生育・病虫害予測を行い、可変施肥や防除、出荷管理に生かすなど高度な農業経営を行う取り組みが各地で展開されている。
農業白書では、高齢者の引退などで農業従事者の減少が避けられないなかで、持続的な食料供給を図るためには、スマート農業技術の活用・促進による生産性向上の加速化が不可欠だと指摘。農水省はスタートアップも含めた多様なプレーヤーによる研究開発・実用化やスマート農業技術の効果を引き出すことができる生産・流通・販売方式への変革を後押ししており、スマート農業機械の導入コスト抑制や導入につながる農地の大区画化のほか、生成AIを用いたサービスの開発を推進する方針だ。
こうしたなか、農水省と農研機構は6日、スマート農業技術の普及と発展を目的とした新たな枠組み「スマート農業イノベーション推進会議(IPCSA:Innovation Promotion Conference for Smart Agriculture、イプサ)」を設立すると発表。農業従事者、農業支援サービス事業者、スマート農業技術の開発を行う事業者、地方公共団体、農業関係団体などが参加する見通しで、ニーズの収集や情報の発信・共有、関係者間のマッチング、人材育成などを通じてコミュニティ形成を促進し、スマート農業技術の開発及び普及の好循環の形成を推進するとしている。 ●生産性向上の取り組み続々直近では大和コンピューター <3816> [東証S]子会社のルーツが、LEDを用いて病害虫のコナジラミを誘引し捕獲・駆除する機器「ピカとる」の販売を開始。従来の農薬散布や物理的捕殺だけでは対処が難しく、ビニールハウス内や施設園芸で多大な被害をもたらすコナジラミ問題に、環境負荷を抑えつつ高い効果を発揮できるという。
農業総合研究所 <3541> [東証G]とクボタ <6326> [東証P]は5月1日付で連携協定を締結した。埼玉県深谷市にある農業総研の集荷場に農機のシェアリングステーションを共同で設置したほか、農産物の新しい「おいしさを表現する指標」の価値検証及び販売への活用を検討する考え。両社はテクノロジーと現場知見を融合させ、農業の持続可能性を高める事業を推進するとしている。
ヘッドウォータース <4011> [東証G]は5月、農業・食品産業技術総合研究機構が開発したカンキツの高品質果実生産技術「シールディング・マルチ栽培」における管理導入支援アプリケーションを開発したと発表。このアプリは、診断・判断・管理といった各プロセスを支える機能を備え、現場の技術活用を円滑にするツールとして設計されている。
オプティム <3694> [東証P]グループのオプティム・ファームは5月、茨城県高萩市でドローンによる水稲の直播(ちょくは:稲などで種を直接圃場にまく栽培方法)を行うスマート農業実演会を実施した。オプティム・ファームは、さまざまなスマート農業機械や栽培手法の実証に取り組んでおり、特にオプティムが開発したドローンを用いて種もみを直接水田に打込播種(はしゅ)をするサービス「ドローン打込条播(じょうは)サービス」は農業関係者の関心が高い。
井関農機 <6310> [東証P]は4月、可変施肥田植機(PRJ8)などが化学肥料・化学農薬の使用量低減に寄与する機械として、みどり投資促進税制の対象機械に認定されたと発表した。可変施肥田植機は、搭載しているセンサーが田植えを行いながら、作土深(作土層の深さ)とSFV(土壌肥沃度)を検知し、施肥量を土壌の状態にあわせてリアルタイムで減肥するスマート田植機。同社は他にもロボットトラクターなど、多種多様な製品・サービスを展開している。
●テラドローンなどにも注目このほかの関連銘柄としては、ITソリューション「農場物語」を手掛けるイーサポートリンク <2493> [東証S]、農業ICTソリューション「OGAL(オーガル)」を提供するキーウェアソリューションズ <3799> [東証S]、高精度かつ安定した位置情報で農作業の自動化・無人化により業務効率を向上させるICT農機の運用を支援するジェノバ <5570> [東証G]、ITとIoT技術で農業生産をサポートする「みどりクラウド」のセラク <6199> [東証S]、農業用管理機械を扱うやまびこ <6250> [東証P]、スマート農業の実現に向けて製品のICT化を進めるタカキタ <6325> [東証S]、トラクターに装備するだけで農作業の労働生産性と農地の土地生産性を向上させるシステム「AGシリーズ」を展開する東京計器 <7721> [東証P]など。
また、農水省の「東南アジアにおけるスマート農業の実証支援委託事業」に採択されているTerra Drone <278A> [東証G]にも注目したい。この事業は、インドネシアを対象に日本のスマート農業技術の実証及び事業展開を支援することを目的としたもので、2月にジャカルタで開催されたワークショップではドローンによる農薬・肥料散布をテーマにプレゼンテーションが実施された。
株探ニュース