電源なしで空気から液体燃料を生むマシーン誕生、原理は「葉っぱ」(ギズモード・ジャパン)
まるで錬金術! イェール大学の研究チームが開発した「人工葉」が、太陽光・水・二酸化炭素だけを使って液体燃料のメタノールを生成することに、世界で初めて成功しました。しかも、外部電源なしの完全自立型デバイスです。 その性能は、従来の同じような試みを32倍上回るといいます。界王拳もびっくりの倍率だ。 研究成果は、米国化学会の学術誌『Journal of the American Chemical Society』に掲載されました。
メタノールは、炭素・水素・酸素からなる最もシンプルなアルコールの一種です(ただし、毒性があるので飲めません)。常温では無色透明の液体で、ガソリンよりずっとクリーンに燃え、燃料電池との相性も良い。 産業的としては、接着剤・塗料・プラスチックといった化学品の原料としても大量に使われていて、世界で年間約1億トンが生産・消費されています。船舶や航空機の次世代燃料としても研究が進んでいるんです。 主な原料は天然ガスや石炭といった化石燃料で、製造過程でもCO2が生まれます。最近ではカーボンニュートラルのために、それらの化石資源を使わずにメタノールを作る技術が実用化されてもいます。
さて、今回の「人工葉」の仕組みを理解するために、まず本物の葉っぱを思い出しましょう。 「光合成」って、理科の授業で聞いたことがあるはずです。植物の葉は、太陽光で水とCO2をグルコースへ変換し、酸素を大気へ放出します。要するに「シンプルな材料から複雑な分子を組み立てる仕組み」が葉っぱということ。 今回の人工葉も発想としては同じように働きます。ただし出力がグルコースではなくメタノールなんですね。
触媒の開発は2019年にスタートしました。イェール大学のHailiang Wang教授たちが作り上げたのは、「ヘテロジニアス分子型電気触媒」と呼ばれる代物です。名前は難しいですが、仕組みはこうです。 CO2をメタノールに変えるには、CO2の分子に6個の電子を一気に注入する必要があります(「6電子還元」と呼びます)。 しかし、従来の触媒では電子の供給に限界があり、2個しか注入できない「2電子還元」にとどまっていて、できるのはCO(一酸化炭素)まで。メタノールへの変換はその先にあって、ずっと届かなかったのです。 そこで登場するのが、グラフェンシートを筒状に丸めた「カーボンナノチューブ」です。研究者たちはこのナノチューブを「電子の高速道路」と表現しており、高速かつ連続的に電子を供給できるように。 コバルトフタロシアニンという分子触媒がその表面に並び、電子が届くたびにCO2をメタノールへと変換していきます。
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カーボンナノチューブの高速道路で電子を届けても、もうひとつ問題がありました。せっかく送り込んだ電子が、逆流して戻ってきてしまうのです。 そこで研究チームが挟み込んだのが、「C60(フラーレン)」という炭素分子。サッカーボールそっくりの球状の分子で、電子を一方向にしか通さない「逆止弁」として機能します。これによって、エネルギーのロスが劇的に減りました。 こうして出来た電極の仕組みを整理するとこうなります。シリコンの微細な柱が光を受けて電子を生み出し、フラーレンがその電子を逃さず触媒へ送り込み、触媒がCO2をメタノールに変える。 さらに、この電極を薄型の太陽電池と一体化させることで、コンセントも外部電源も不要なシステムが完成! 達成した変換効率は0.8%。「小さいな」と感じるかもしれませんが、これは人工葉による光からアルコールへ変換するシステムにおいて、従来の世界記録から32倍の効率です。 実用化には越えるべきハードルがあるはずですし、変換効率0.8%を産業レベルに引き上げるにはさらなる改善が必要でしょう。ただ、研究者たちはスケールアップして大規模生産を行うことも原理的には可能だとしています。
それにしても、化石燃料も何も使わず、電源も不要で、というのがやっぱりアツい発明。メタノールが光合成でガンガンできたら、まったく違う景色が広がりそう。 ちなみに、日本だとメタノールは三菱ガス化学が高いシェアを持っているのですが、公式ウェブサイトではメタノールを分解して「水素キャリア」として使う未来像も掲げています。 水素は運ぶのにも高圧で極低温じゃなければいけませんから、常圧・常温で運べるメタノールで持っておいて、使うときに水素化するのは確かに賢い選択といえますよね。 Source: YaleNews, heise online, Journal of the American Chemical Society
長谷川賢人