たどり着いた連続強盗の「指示役」 4人の容疑者は何者だったのか
1年前、関東各地で正体不明の集団による強盗事件が相次いだ。高齢者らを相手に、容赦ない暴行が繰り返された。
「足の爪をはがせ」
スマートフォンのスピーカーから怒声が響き、襲われた住人は死を覚悟した。
突然押し入った犯人たちは、現金や通帳を奪い、時に被害者を死に至らしめた。
警察庁によると、一連の事件は2024年8~11月の69日間で、東京と千葉、神奈川、埼玉の1都3県で18件に及んだ。これまでに51人の実行役や現金回収役らが捕まったが、ほとんどは「闇バイト」で集められた末端の「駒」だった。
では、率いたのは何者だったのか――。
12月5日、警視庁などの合同捜査本部は18事件の一つに関与したとして、指示役とみられる男性4人を逮捕したと発表した。
世間を恐怖に陥れた犯罪グループの実態が、ようやく明らかになりつつある。【菅健吾、朝比奈由佳、松本ゆう雅】
実行役にも向けられた脅し
現場は、凄惨(せいさん)だった。
「じじい、金の場所言わねえと殺しちまうぞ」
24年11月2日未明、東京都葛飾区の民家では、突然押し入った2人が住人の70代男性を縛り上げていた。
「手の指を思いっきり逆に曲げろ」
通話状態のスマホから「カワセミ」と名乗る指示役が声を荒らげる。
居合わせた実行役がためらいを見せると、カワセミの矛先は彼らに向いた。
「住所は知ってる。家族、さらうぞ」
追い立てられた実行役は暴行を続け、それは10時間以上に及んだ。
男性は脳内出血の大けがをさせられ、現金90万円や預金通帳、携帯電話を奪われた。「このまま死んだ方が楽」とさえ思ったという。
中には住人が死亡した事件も
18件は、暴力的な手口が目立つ。住人が連れ去られて監禁されたケースもあった。24年10月に横浜市青葉区で起きた事件では、住人の男性(当時75歳)の命が奪われた。
押し入った者たちは、大半のケースで複数人。だが互いのことを知らず、行き先や襲う相手については、会ったこともない人物から指示を受けていた。
ある捜査幹部は「金品を得るために手段を選ばない悪質性の高さが指示役の特徴だった」と言う。
一方、実行役らの7割は20代以下。主にX(ツイッター)で集められた。既に捕らえられ、起訴された被告たちの公判を傍聴すると、いかに「軽い」気持ちで事件に及んだかが分かる。
言われるがまま「軽い」動機で
「自分で自由に使える金がほしい」
葛飾の事件で逮捕された20代男性はそんな動機を語った。
東京・歌舞伎町のホストだったが、24年8月に人間関係が原因でやめ、交際相手の「ヒモ」になった。スマホで「即日即金」と検索し、すぐにつながった謎のアカウントから仕事の紹介を受けた。
「犯罪はやりたくなかったから」と、いくつかの仕事から「現場確認」を選んだ。聞かれるがまま、そのアカウントに自分のマイナンバーカードの写真を送った。
しかし、実際の仕事は強盗だった。
深夜、JRの駅でもう一人の実行役と落ち合う。伝えられた住所に向かい、そこで初めて「家に押し入って住人を襲え」と告げられる。事件後は茨城県内まで逃げ、偽名でホテルに泊まった。全て指示されるままに動いた。
逮捕されたのは、相談した交際相手が交番に駆け込んだからだ。公判では「軽率に取り返しのつかないことをした」と悔やんだ。
一方、実行役たちは、自分に指示をする人物が何者なのか、最後までよく分かっていなかった。知っていたのは、カワセミといったアカウント名と声くらいだ。
そうやって、若者たちは指示役から「使い捨て」にされていった。
アカウント50以上使い分けか
ベールに包まれていた指示役は、いったい何者で、何人いるのか。事件が起きた時から、捜査はその解明を目指して進められてきた。
指示役は、交流サイト(SNS)で闇バイトを募り、「シグナル」といった匿名性の高い通信アプリに誘導して指示を出す。
一連の事件では、通信アプリで大量のアカウントが使われた。その数は実に50以上。
「エヌバペジュニア」「夏目漱石」「バイトリーダー」「佐々木」「ゴッサム」「DRヒルルク」――。カワセミもその一つだった。
ある捜査幹部は言う。
「多くの指示役がいたわけでなく、大量の電話番号を使って取得したアカウントを細かく切り替えていただけだ。実際には10人にも満たないだろう」
スマホ750台を解析
捜査本部は、実行役らから750台のスマホを押収し1台ずつ解析。実行役の証言を精査し、被害品を追った。だが、指示役の影は容易に浮かび上がらない。
そんな中、予期せぬ展開が起きる。
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