TikTokを見てたら「時間が溶けた」…若者たちが「リール動画」から抜け出せない脳科学的理由 「ユーザーをアプリに閉じ込める」仕組みに特化

ヒトは、報酬を予感するだけでもドーパミンが放出されます。最初の1~2秒のインパクトを重視した刺激的な動画づくりはもちろんですが、興味が無ければ手軽にスワイプして、次へ次へと新たな動画があらわれていくのがリール動画の特徴です。

この新奇性をくすぐる「宝探し」のような体験の中で、数回スワイプしている間に嗜好と完全にマッチした「当たり」動画が出現します。このとき脳内では「期待を上回る報酬予測誤差」が発生し、ドーパミンが大量に放出されていると考えられます。

TikTokなどの動画プラットフォームは、先進的なAI技術を用いてユーザーの行動ログを秒単位で学習させ、好みピッタリの動画を戦略的にランダムで挟み込んでいるとも言われています。

ユーザーが視聴すればするほど、アルゴリズムはさらに学習して「ユーザーが魅力的と感じる可能性の高い」動画を、まるで偶然の発見のように提供し、その結果、視聴時間がますます延びていくというわけです。

写真=iStock.com/ViewApart

※写真はイメージです

「依存を生む仕組み」に閉じ込められる

この「予測がつかない不規則な報酬」は、さながらスロットマシンのようで、ギャンブル依存症を生む仕組みと同じと考えられています。

実際、アメリカでは2024年にニューヨーク州やカリフォルニア州など14州が、TikTokの運営会社である中国のByteDance社を「若年層を意図的に依存させる設計を安全と詐称した」として訴え、その訴状には「無限スクロールやプッシュ通知がドーパミンを誘発する仕組みで長時間使用を促進し、精神衛生に有害である」とはっきりと主張しているほどです(※1)

動画が延々と続いて離脱のタイミングを失わせる無限スクロールをはじめ、にぎやかな音楽は視聴者の時間感覚を失わせ、イヤーキャンディを強く意識した耳に残るSE(効果音)や、視覚的な注意を絶え間なく奪い続ける画面演出とUI(ユーザーインターフェース)も、ドーパミンを放出させて「ユーザーをアプリに閉じ込める」仕組みに特化していると言えるほどで、まさに依存型マーケティングの最先端を走っていると言っても過言ではありません。

※1 Bhuiyan, J. & Robins-Early, N. US states sue TikTok, claiming its addictive features harm youth mental health. The Guardian (2024)


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一部の研究では、クレジットカードのロゴを見るだけで無意識に購買欲求が高まると報告した例もあります(※5)。もはや私たちはクレカを見るだけで、買い物という「報酬の予感」が生まれるように潜在意識が学習してしまっているのかもしれません。

そしてキャッシュレスでの支払いは、財布を取り出して現金を支払うというプロセスより圧倒的に利便性が高く、これは処理流暢性を重んじる脳にとっても大変嬉しいことです。

川島隆太・岡田拓也・人見徹『欲しがる脳』(扶桑社新書)

手続きが簡便になればなるほど、私たちの前頭前野による「遅い思考」の抑制機能の出番は失われ、「速い思考」による直感的な決断が行われやすくなります。

さらに各社は支払いの際に「ピピッ」、「シャリーン」と工夫を凝らした脳に心地よい音を用意しており、これも聴覚からの潜在的な報酬となっていそうです。

この体験がキャッシュレス決済ごとに積み重ねられ、私たちの電子的なお財布の紐は、意図せずどんどんと緩くなってしまっているのです。

※5 Raghubir, P. & Srivastava, J. Monopoly money: The effect of payment coupling and form on spending behavior. J Exp Psychol Appl 14, 213-225 (2008).

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