港区に仮想通貨「250億円資金洗浄」の拠点 規制は難航
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暗号資産(仮想通貨)の取引を巡り、犯罪収益のマネーロンダリング(資金洗浄)を続ける現場に記者が入った。安全・安心な商品を目指す取り組みに終わりはないが、それと並行して悪用を防ぐ対策を迅速に講じなければ社会の信頼は失われていく。業界は、より適切な監視のあり方を生み出そうと必死だ。
3月下旬の夕方、東京都港区の繁華街にある古びたマンション。3階の角部屋は、玄関外側の上部に取り付けられた監視カメラ3台が赤いLEDランプをともしていた。
1DKの内部では、壁際に置かれた机に計7台のデスクトップパソコンが並んでいる。英語と数字、チャートで埋め尽くされたモニターを見つめているのは、20〜30歳代という日本人の男女6人だ。
「眠いから帰りたい」
「やっとコンプリート」
たまに響く大きめの独り言が、静かに流れているクラシックやジャズを遮る。
部屋は不動産コンサルティング会社の男性役員が管理している。小・中学校で同級生だった指定暴力団の幹部から頼まれ、仮想通貨を使った資金洗浄の実行班を束ねる。
機材の整備、「闇バイト」の募集を中心にした人繰り、情報管理と幅広い役割を月額200万円の報酬で請け負っている男性役員。洗浄の対象については「詐欺や違法薬物取引などで得たもの」と説明され、作成者の分からないマニュアルも受け取ったという。
預かった収益金は分散し、暗号資産交換業者を介してビットコインなどに交換し、海外の協力者に送る。そこから移動を繰り返す中で、さらに別の仮想通貨に切り替えたり、複数の所有者データを混ぜて匿名性を高める「ミキシング」も使ったりする。
男性役員がこの拠点の「実績」をまとめたファイルには、2022年末に始めてから25年2月までの間に250億円超分の洗浄を済ませた記載があった。「同様のシステムで運用されている拠点が、他に国内で5カ所あると聞いた」。男性役員はそう明かした。
自主規制団体の日本暗号資産等取引業協会によると、仮想通貨を取引している国内の稼働口座数は1月末時点で約734万に上り、5年前の約3.6倍となった。トランプ米大統領が戦略的な備蓄に言及するなど仮想通貨に親和的な姿勢を示しており、さらに拡大する機運が高まる。
安心・安全な取引を根付かせたいものの、新興の業界にとって資金洗浄の防止策はコストの増大や専門人材の確保が悩みの種のままになっている。そこで2〜4月の予定で、仮想通貨やステーブルコインなどデジタル資産の資金洗浄対策を高度化する実証実験が始まった。
参加しているのは日立製作所、NEC、野村ホールディングスのほか、仮想通貨交換業者など計13社だ。従来は個別に収集していた資金洗浄に関する情報を、日立が提供するプラットフォーム上で共有。その分析結果を対策の精度や効率性の向上に生かす。人工知能(AI)を活用し、取引をモニタリングする業務の自動化も検証を進めている。
実験を企画したのは、大手交換業者ビットフライヤーで社長を務めたフィノジェクト(東京・渋谷)の三根公博社長だ。「デジタル資産の取引全体を監視する機関がないため、警察が取引に関する照会を業者に対して一斉で実施し、それに全社がほぼ同じ作業で応じるという負担が発生している」と説明する。
仮想通貨業界では現在、資金洗浄が疑われる取引の初期チェックを自社スタッフではなく外部に発注するケースが珍しくない。これをプラットフォームが担い、各業者の責任で捜査当局に届け出るフローを想定しているという。三根氏は「高いレベルで資金洗浄を排除できるインフラは、皆で使う公共財にした方が社会全体に寄与できる」と語る。
仮想通貨に対する信頼性の向上はまだ道半ばだ。正規の交換業者は犯罪収益移転防止法に基づき、仮想通貨を管理するウォレット(電子財布)の開設時や10万円超の売買時に利用者の身分情報や目的を確認する。別の交換業者のウォレットに仮想通貨を送る際は、事業者間で利用者情報を共有する「トラベルルール」も適用される。
法定通貨との交換状況や通貨移動を透明化して洗浄を防ぐ仕組みだが、抜け穴は埋められていない。例えば金融庁に登録されていない個人業者を使えば規制を逃れ、素性や原資を隠したまま取引し、現金にも換えられるのだ。実際に港区で確認した事例は、登録と無登録の業者を併用していた。
金融庁は26年にも金融商品取引法の改正案を国会に提出し、仮想通貨を金融商品として法的に位置付ける方針だ。投資の対象に含まれると規制はさらに強まる形になるが、あくまで自助努力と両輪でなければ、健全な業界は育成できないだろう。
(日経ビジネス 鳴海崇)
[日経ビジネス電子版 2025年4月2日の記事を再構成]
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