日本人の死因について

テーマ:糖尿病

慶應義塾大学とワシントン大学保健指標評価研究所による最新の研究が、日本の健康状態の30年間の変遷を包括的に分析しました。この研究は、世界保健機構(WHO)が主導する世界疾病負荷研究2021のデータを用いて、1990年から2021年までの日本全国および47都道府県における健康指標の推移を評価したものです。

主な発見

平均寿命と健康寿命の格差

研究によると、日本の平均寿命は1990年から2021年までに5.8年延長し、85.2歳になりました。しかし、健康寿命(健康上の問題なく生活できる期間)との差は拡大し、1990年の9.9年から2021年には11.3年に増加しています。これは、日本人が長生きするようになったものの、その追加された寿命の多くが何らかの健康問題を抱えての生活となっていることを示しています。

認知症が死因の第1位に

特筆すべきは、認知症(アルツハイマー病などを含む)が日本における主要死因の第1位になったことです。2021年の主要死因は以下の通りでした。

  1. 認知症(人口10万人あたり135.3人)
  2. 脳卒中(114.9人)
  3. 虚血性心疾患(96.5人)
  4. 肺がん(72.1人)
  5. 下気道感染症(62.3人)

この研究での死因分類方法は、厚生労働省が通常発表する統計とは異なることに注意が必要です。厚生労働省の統計では、がんは通常一つのカテゴリーとしてまとめられますが、この研究ではがんを種類別(肺がん、胃がんなど)に分けて分析しています。そのため、認知症が第1位となっていますが、がん全体を合わせると依然として主要な死因であると考えられます。

DALYsとは

この研究では、DALYs(Disability-Adjusted Life Years、障害調整生存年)という指標が用いられています。これは、疾病や障害による健康への影響を総合的に測る指標で、早死による損失生命年数と、障害を抱えて生活する期間を合わせて表したものです。1 DALYは、健康な生活の1年分の損失を意味し、病気や怪我がどれだけ人々の健康な生活期間を奪っているかを示す重要な指標です。

糖尿病と関連リスク要因の悪化

糖尿病に関連する健康状態が悪化していることは、この研究の中でも強調されています。2015年以降、年齢調整した糖尿病に起因するDALYsは年率2.2%増加しています。これと並行して、高血糖や過体重・肥満などの問題も深刻化しています。具体的には、高血糖に関連するDALYsの年率換算変化率は、2005~2015年の-0.8%(減少)から2015~2021年には0.8%(増加)へと転じています。また、高BMI(肥満指標)に関するDALYsの年率換算変化率も、1990~2005年の-0.3%から2015~2021年には1.4%へと悪化しています。ちなみに「年率換算変化率」とは、ある期間における変化の速さを年間の割合として表したものです。たとえば、-2.0%という年率換算変化率は、毎年平均して2.0%ずつ減少していることを意味します。

健康改善の鈍化

全体的な傾向として、日本の健康改善ペースが鈍化していることが明らかになりました。全死因の年齢調整死亡率の年率換算変化率は、1990〜2005年の-2.0%から2015〜2021年には-1.1%へと縮小しています。これは、脳卒中や虚血性心疾患などの主要疾患の改善ペースが遅くなっていることを示しています。

地域格差の拡大

都道府県間の健康格差も拡大しており、平均寿命の地域差は1990年の2.3年から2021年には2.9年に広がっています。特に男性で格差が顕著で、3.2年から3.9年に拡大しました。

兵庫県の状況

研究によると、兵庫県は1990年から2021年の間に平均寿命が6.5年延長し、全国でも健康改善が著しい地域の一つとなっています。特に脳卒中による死亡率の低下が顕著で、これが平均寿命の延伸に大きく貢献しています。また、兵庫県は都市部と農村部を含む多様な地域性を持つため、県内でも健康状態に差がある可能性が指摘されています。

私たちの健康を守るために:糖尿病マネージメントのヒント

この研究結果は、私たち一人ひとりの生活習慣が将来の健康に大きく影響することを示しています。特に糖尿病は、それ自体が問題であるだけでなく、心臓病や認知症などの他の病気のリスクも高めます。糖尿病を適切に管理することは、認知症予防にも効果的であることが分かっています。血糖値をマネージメントすることで、脳の血管を健康に保ち、認知機能の低下リスクを減らすことができます。糖尿病を予防・管理するためには、以下のような生活習慣の改善が効果的です。

  • バランスの良い食事:野菜を多く取り入れ、糖分や脂肪の摂りすぎに注意しましょう
  • 定期的な運動:認知症予防にも非常に効果的で、週に150分の中等度の運動が推奨されています
  • 適正体重の維持:急激なダイエットより、緩やかな体重管理を心がけましょう
  • 定期的な健康診断:早期発見・早期治療が重要です
  • ストレス管理:ストレスも血糖値に影響します

まとめ:健康長寿社会に向けて

日本は世界有数の長寿国ですが、単に長生きするだけでなく、いかに健康に長生きするかが大切です。認知症や糖尿病の増加傾向は、私たちの生活習慣を見直す重要なサインと言えるでしょう。健康は一日にしてならず、日々の小さな選択の積み重ねが将来の健康を決めます。この研究が示すように、地域や性別による健康格差も存在しますが、適切な生活習慣と定期的な健康チェックを心がけることで、誰もが健康寿命を延ばす可能性を持っています。健康で充実した人生を送るために、今日から小さな一歩を踏み出してみませんか。

引用文献

Three decades of population health changes in Japan, 1990–2021: a subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2021. Lancet Public Health. 2025;Published Online March 20. DOI: https://doi.org/10.1016/S2468-2667(25)00044-1

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