ボノボはなぜ「女性優位」になれるのか、力の源は、最新研究

今回の研究では、ボノボの群れ内における「順位」を、メスがオスとの争いに勝利した回数を数えることで測定した。その結果、たいていメスが優勢だった。(Photograph by Christian Ziegler)

 チンパンジーなど多くの社会性哺乳類ではオスがメスよりも優位なのが一般的なのに、なぜ近い仲間であるボノボのメスは、しばしばオスよりも優位に立てるのだろうか? 米ハーバード大学の行動生態学者であるマーティン・サーベック氏らは、この疑問の答えを求めてきた。そして、コンゴ民主共和国に生息する6つのボノボの群れを30年近く観察した結果、ある結論に達し、2025年4月24日付けで学術誌「Communications Biology」に論文を発表した。

 メスのボノボは、2頭以上(通常は3〜5頭)で結束して連合を組むことで、オスがもたらす危険を減らし、自らの影響力を高めているのだ。オスはメスよりも体が大きい傾向にあるが、メス同士が団結して行う攻撃の85%はオスに向けられていた。

「私たちは誰もがすでに知っていることを発見したのです。つまり、協力すれば、よりうまくいき、力を得られるのです」と、本研究の筆頭著者であるサーベック氏は言う。

互いに団結することで、ボノボのメスは自らを影響力のある地位へと押し上げている。(Photograph By Martin Surbeck, Kokolopori Bonobo Research Project)

「ボノボの社会では、メスが大きな“発言力”を持っています。これは、集団内のすべてのおとなのオスがすべてのメスよりも優位に立ち、性的に魅力的なメスがオスから多くの攻撃を受けるチンパンジーの社会とは大きく異なります」と、サーベック氏は説明する。

 この研究は「優れたデータセット」を活用し、「ボノボのメスがどのように権力を築き、維持しているのかについて、刺激的な新たな視点」を提示していると、米カリフォルニア大学バークレー校の生物人類学者で、本研究には関与していないローラ・シモーヌ・ルイス氏は評価する。

「ボノボはチンパンジーと共に私たち人類に最も近い近縁種です。そのため、今回のデータは、人類とその祖先が何百万年もの間、団結することで権力を築き、維持してきたという考えを裏付けるものでもあります」と、ルイス氏は語る。(参考記事:「26年前に別れた妹を覚えていたボノボ、人以外で最長の社会的記憶」

歯をむき出しにしているボノボのメス。今回の研究では、メス同士が互いに支援し合うほど、個々の争いでの勝率が高くなり、順位も上がることがわかった。(Photograph By Frans Lanting, Nat Geo Image Collection)

メスが優位に立つ方法

 今回の研究で観察された6つのボノボの群れでは、メスの協力と優位性のレベルがそれぞれ異なっていた。「群れの中でメスが持つ権力に大きな違いが見られます。私たちは、その違いの多くがメス同士の連合形成によって説明できることを発見しました」と、サーベック氏は言う。

 サーベック氏らは、メスがオスとの争いに勝った回数と、群れの中でメスよりも下位のオスの割合を調べることで、群れの中での「順位」を測定した。例えば、チンパンジーのオスは常にメスよりも優位に立つが、ボノボのメスは平均すると群れのオスの70%よりも上位に立っていた。そして、これらの順位関係は場所や時間によって変動していた。

 1998年、ロマコという場所の「アインゴ群れ」のメスはオスに屈服したり、オスよりも下位になったりすることが一度もなかった。2020年のココロポリの「ココアロンゴ群れ」のメスもほぼ同様で、メスはオスとの争いの98.4%で勝利していた。しかし、不思議なことに、2016年の同じくココロポリの「エカラカラ群れ」では、オスがメスに服従したのはわずか18.2%だった。

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