いまでも怖い「はしか」~海外での感染リスクに警戒を~|医療ニュース トピックス|時事メディカル|時事通信の医療ニュースサイト
古代から高い致死性と感染力で恐れられてきたウイルス性感染症の「はしか(麻疹)」。時代が進むにつれて弱毒化してきたが、空気感染による高い感染力があり、子どもが発症すれば、1000人に1人は亡くなる怖い病気だ。ワクチンの普及で患者が出なくなった国も多いが、ベトナムなど新型コロナウイルス対策に追われ、はしかの予防接種率が低下した国では大流行となり、現地を訪れた日本人が帰国後に発症した事例が報告されている。
感染が続いている国に訪れる際はどのような予防策をとればいいのか、また、それら国から人を受け入れる際にはどのような注意が必要か。渡航者医療に長年取り組んできた東京医科大学渡航者医療センターの濱田篤郎(はまだ・あつお)客員教授に聞いた。
はしかの予防接種を受けるスーダンの子ども(24年1月=AFP時事)
◇東南アジア中心に感染が拡大
濱田氏は現在の状況について、「現在大規模感染が報告されているのはベトナムだが、他のアジア諸国も不安が残る。また、欧州や北米でも海外からの持ち込みによる患者が出ている。特に米国では現政権内でワクチン忌避勢力が強い影響力を持っているため、今後のワクチン接種率がどうなるかが不安だ」と分析する。
はしかには「特効薬はない」とされ、発症すれば対症療法を続け、回復を待つしかない。さらに、感染力はインフルエンザや新型コロナを大きく上回るため、ワクチンによる予防に頼らざるを得ない。
米テキサス州ではしかの予防接種を受ける男性。同州でははしかが流行し、今年2月には死者も出た(25年3月=EPA時事)
日本では現在、新生児と小学校入学前の2回の接種が義務付けられている。
ただ、ワクチンが登場してから1972年10月~90年4月生まれの人までは1回接種だったために、十分な免疫を獲得できていない。また、90年生まれ以降でも一定の経過措置として2回目の予防接種が中学1年または高校3年に実施されたが、接種率は十分ではなかったという。「これらが現在の20代後半~50代前半で、海外で感染して国内で発症したのもこの世代」と濱田氏はみる。一方、現在のワクチンが普及する前の50代後半以降の世代は、感染による免疫を獲得していると考えられている。
はしかの感染注意を呼び掛ける厚生労働省のチラシ
◇「乳幼児は1000人1人が死亡」
濱田氏は「小児で感染すれば1000人に1人が死亡する怖い病気。感染力が強いので社会全体のワクチン接種率を95%以上に保っていなければ、海外からの流入があった場合、国内での感染拡大を招きかねない。重症化しやすい乳幼児、次に海外に渡航する機会が多く、ワクチン接種が1回で終わっている可能性の高い20~40代の免疫(抗体)が弱いグループに積極的に接種していかないといけない」と訴える。
ただ、問題なのは、国産ワクチンの供給量が十分でないことだ。濱田氏は「国産ワクチンは乳幼児に優先し、海外渡航に備えてワクチンを打つ場合は渡航者外来などで輸入ワクチンを接種するなど使い分けが必要だ。安全性に差がなく、渡航者ワクチンとしては決して高価ではないので、安心して接種してほしい」と呼び掛けている。
◇発症すれば渡航者診療へ
一方、海外で感染した疑いがある場合はどうするか。はしかの特徴的な症状は口の中や全身に出る赤い発疹と発熱。帰国後にこれら症状、特に特徴的な発疹が出たときは、近所のかかりつけ医ではなく、事前に電話連絡をした上で、渡航者医療外来を受診する。「日本国内ではあまり見かけない病気でも、持ち込まれれば大変なことになる、いまだに怖い病気であることは確か。海外渡航者だけでなく、日本を訪れるインバウンドの人たちと多く接する人も注意を忘れないでほしい」(濱田氏)。(喜多壮太郎)
(2025/06/20 05:00)
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